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「でも、犯人を知らないのはこっちも同じだよね?たすく君達に探せるのかな?」
「ファンってのは憧れからくるものなんだ。だから服装とかスタイルとか、憧れたやつの真似しがちなんだよ。だから来栖芽衣子の写真も送っとく。たすくとザクロならピンと来るだろ?」
憧れた相手とそのファンは服装やメイクなどが似ているもの。確かにたすく君の記憶力とザクロ君のセンスなら気付けるかもしれない。そう無茶な話ではなさそうだ。
とりあえず来栖さんはミロワールの服が好きみたいだ。『女の子っぽい服を着た長身ロングヘアで口紅しっかり塗った人』を探せばいい。
「それで犯人を見つけたらどうするの?」
「その証拠を撮って、学校や職場に送るとおどしてミロワールから手を引かせる」
いつものリーチ君の声なのに、まるで大人が話しているかのような雰囲気だった。おどすって、小学生の発想じゃない。でもそれをすればなんだか困っているらしいミロワールも助ける事ができるし、告げ口には告げ口で返すのが一番だ。
「そもそもさ、犯人が使ったメールアドレスは一つなんだよ。捨てアドだけど、ズサンだから警察がそこから探れば犯人は簡単に捕まえられる。なのに事情あるのかミロワールの人達はそれをしない。なら警察がカイニューできないように終わらせるしかないだろ?」
「うーん、そうなのかな……?」
「そう。ま、おどすってのは言葉が悪いが、小学生付け回して盗撮してた奴が小学生に盗撮されるんだ。はっと我にかえるに違いないぜ」
確かに想像してみて、盗撮した人が盗撮されたら、自分のした事をよく理解できてしまうかも。しかも相手は小学生だし、大人なら冷静になると思う。そうして自分から反省して、謝罪してくれればいいな、というのがリーチ君の狙いだ。
■■■
しばらく私とリーチ君は仮眠室で過ごした。私は加々美さんのものらしきデザインの本を借りて読む。リーチ君はスマホのゲーム。
しかしそのゲーム中、通知があった。待ち望んでいたたすく君からの連絡だ。
「お、たすく達もうこっちに来てるってさ。……って見つかった!?」
「え?」
「犯人、見つけたって」
猫目を大きく見開いてリーチ君はメッセージを読み上げる。頭の回転の早い彼からしても予想外の展開だろう。たすく君とザクロ君が、こんなにもはやくに犯人を見つけるなんて。
そしてさらに猫目は見開かれる。
「犯人は来栖芽衣子だった」
私も目を大きく見開いた。ええと、確か犯人は急にモデルが変わった事に怒っている来栖芽衣子ファンじゃなかったっけ?
なのに来栖芽衣子本人が犯人?関係なくはないだろうけど、なんで? 来栖芽衣子本人なら自分が仕事降ろされた理由なんてわかっているはずなのに。
「ほら、写真。これ来栖芽衣子だろ?」
リーチ君が見せて来た画面はザクロ君が撮った写真らしい。唇の厚さが印象的な女の人がカフェでくつろいでる。服は全身ミロワール。来栖芽衣子を真似たというか、ほぼ来栖芽衣子。
「それでこの場所だけど、ミロワールの出入り口がよく見えるんだと」
「偶然、じゃないよね?」
「ああ。どうりでたすく達も見つけるのが早いはずだ。『この人に似てる人を探せ』って言ったのに本人を見つけたんだから」
似てる人を探すだなんて難しい事であるはずだ。けど本人ならあっさりと見つける事ができる。
けど、本当にどういうことなんだろう。
「芽衣子ちゃんは事情あってお仕事できなくなったんだよ」
混乱する私達に穏やかな声が届く。加々美さんだ。ちょんまげメガネスエット姿が不自然な程に真剣な顔をしている。
「どうしてかは知らないけど、君たちは彼女の事を知ったんだね。けどもう大丈夫。僕が自ら出て、彼女を説得するから」
加々美さんはそう言って、脱ぎ散らかしていた服をとる。そっか、外に出るなら着替えないとね。だとしたら、私は外に出たほうがいいのかも。
私のそんな気づかいなど知らず、リーチ君は質問をする。
「来栖芽衣子は何をしたの?」
「……それは言えないよ」
「俺ら巻き込まれてるし、小夜子なんてこれから攻撃されるかもしれないのに?」
着替えを取った加々美さんの手が止まった。どうやら着替えは中断し、事情を説明してくれるらしい。これこそが加々美さんらしい対応だ。私に何かあるといけないから教えてくれる。
「事件があったんだ。僕は彼女に、刃物で刺されかけた」
仕方なく話されたその内容は、めちゃくちゃに重いものだった。
私は思わず加々美さんの体を確認する。スエットの細身の体は姿勢よく優雅に立っている。とてもどこか大怪我したようには見えない。
「大丈夫、刺されてはいないんだよ。そうなる前に内海ちゃんが刃物を蹴り落としたから」
「それは……かっこいいな」
リーチ君はついそんな感想をもらす。確かにイケメン俳優のような内海さんがアクション映画みたいな動きを見せたらかっこいい。その様子は簡単に想像できた。
けど、なんで来栖さんが加々美さんに刃物を向けたのか。
「芽衣子ちゃんは僕のことが好きだったみたい」
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