「あと、加々美さんならこういう時、すぐに警察に助けを求めると思うんだよな。あの人、女子供老人をすごい大事にしてるじゃん」

「うん……防犯に人一倍気をつけてるし。内海さんもそう」


加々美さんは女性をとても尊敬していて、好きだからこそレディースのデザイナーをしている。だから私の身の回りの事は仕事のときも何かと気を使ってくれて、今回だって危ないからお迎えが来るまで待つように言われた。けど普段の加々美さんならすぐ警察に相談したと思う。だからミロワールに何かあるんじゃないかって、リーチ君が疑っている。


「ま、俺んちもミロワールも商売やってるからさ。警察沙汰にして悪いイメージをつけるわけにはいかないってのもあるけど、加々美さんはそんなもんより小夜子の安全を取ると思うんだよな」

「うん。なんか変なんだよね。私もちょっと気になってたことがあって」

「なになに?」


よほどリーチ君の興味を引いたのか、彼は起き上がって聞いてくる。私は壁を指さした。


「普通、会社って関わってる広告を壁に貼ったりするでしょ。なのに今見た限り、私の広告しかないの」

「そういえば……なんかスッキリしてるとは思ってたけど」

「普通はリーチ君ちの事務所みたいに誰かが見るようなところに今までの仕事のことを貼ると思うの。昔のものだとしても、こんな仕事しましたよっていう結果だし」

「だよな。服だからはやりがあるかもしれないけど、まったくないってのも変だし。内海さんも前モデルのこと結局やめたとしか言わなかったっけ」


リーチ君は私と同じ疑問にぶち当たった。ポスターなど広告が事務所にない。それどころか、内海さんと家族ぐるみの付き合いをしだしたリーチ君も、前のモデルの存在は聞いていないらしい。


「ま、こういうときのためのネットだ。『ミロワール モデル』で検索っと」


リーチ君はスマホをすばやく指で操作して、結果を眺める。そっか、ネットで検索するというのは思いつかなかった。聞きにくい事でもネットなら関係がない。


「お、『来栖芽衣子』って人だってさ」

「クルスメイコ?」

「こういう人」


リーチ君はスマホを見せる。その画像には髪が長く、厚めの唇が特徴的な女の人が写っていた。勿論モデルなのですらりとしていて雰囲気がある。だからミロワールの服も似合ってる。


「元は読モってやつらしくて、そこからがんばって他にもいっぱい仕事してる。結構有名どころなのかな。蘭子ねーちゃんなら詳しいかもしれねーけど」

「どうしてミロワールの仕事、やめちゃったんだろう?」

「忙しくなった、とか。他に優先したい仕事ができたり契約の都合でやめるとかよくある話だけど。なんにせよ急にやめたんだろうな」

「急?」

「ミロワールがモデルを小夜子に決めたときだっていきなりだったろ?それでギリギリに撮影してギリギリに広告だした。今日みたいに服作りで手間どったのかと思ってたけど、もしかしてなにかモデルにトラブルがあって遅れたんじゃないか?」


リーチ君のおかげで話がすっきりとまとまってしまった。

前のモデルさん、来栖芽衣子さんが問題を起こしたから急に私に仕事が来た。だからポスターははがした。そして誰も語らなくなって、なかったことにした。


「もしかしてそれ、例の告げ口メールも関係ある?」

「ああ。多分犯人は来栖芽衣子のファンだろ。だから小夜子のアンチになったんだ。来栖ファンからしてみれば、小夜子は仕事とった敵だと思うんじゃね?」

「だから加々美さん達、おかしくなったのかな」


多分、来栖芽衣子さんの事は私達には説明しづらい事に違いない。だから加々美さん達はおおごとにしたくはなかった。自分達で解決するか、モデル業界に詳しい蘭子さんに相談しようと思った。


「ま、ある程度判明したってその小夜子アンチの来栖ファンはやっちゃいけない事をやってるんだ。そろそろ俺たちも反撃しようぜ」

「ハンゲキ?」

「こうして大事に守られてカンジンな事を秘密にされるのって嫌だろ。だから俺たちは俺たちにできることするぞ」


いつもの私達らしい展開になってきた。正直、危ないことはしたくないけど、本当の話を子供だからって隠されるのは嫌だ。このまま守られて終わりなのは納得がいかない。

リーチ君は今度はスマホで通話を始めた。


「あーたすく?オレオレー。今から送る場所にザクロと一緒に来て。俺ら今動けなくなってさー」


電話相手はたすく君。しかしたすく君は返事をする間すらなかったんじゃないかと思う。そのぐらいにリーチ君が喋って、通話を終えた。次にここの住所などをスマホに打ち込んでいる。


「たすく君とザクロ君を呼ぶの?」

「あいつら午後は暇だって言ってたからな」

「危なくない?」

「ちょっとこのへんを探ってもらうんだ。大丈夫、犯人は小夜子のことをまったく知らなかったんだ。もしはちあわせたって無関係な小学生だと思うはずだよ」


視線はスマホのまま、リーチ君はすらすら考えを述べた。なるほど、犯人は私を大人だと思い込んでる。なら小学生二人が目の前に現れたって何も気付かないだろう。


「多分、この辺りはミロワールの人がとっくに探していると思う。けど犯人も隠れているだろうから見つからないだろうな。ミロワールの人の顔は知られてるっつーか、女の人なら服でバレるから」

「あっ」


もし犯人がこの付近に隠れているとしたら、ミロワールの服を着た人を避ければいい。ここで働く人は外村さんのようにミロワールの服を着ていることが多いのだから。

だから関係者が探したって見つからない。だから顔のバレてない無関係そうなたすく君達に見つけてもらうといい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る