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「ザクロ君とたすく君は?」
『二人は午前中に予定があるから駄目だってさ』
「そっか。社会見学、ミロワールってのは気になるな……」
『だろ?きっとモデルの仕事にも役立つと思うぜ』
そう言われれば断れない。ただでさえ私は子供で、ファッション業界の知識がたりていないのだ。おしゃれもしないからウニクロの服ばかりだし、それはモデルとしてまずいと思う。
リーチ君の一行日記に使われているとしても、予定を取り付けてくれたリーチ君には感謝したい。
「じゃあ行く」
『おう。明日十時、うちの事務所まで来てくれ』
「事務所?」
『ねーちゃんが小夜子に話あるんだってよ。事務所からミロワールまで歩きだし、ちょっと寄ってけよ』
話と聞いて、私は少し身構えてしまう。もしそれがよい知らせならすぐ電話に来るはずだ。いつでもいい、しかし事務所に来てほしいとなると悪い知らせかもしれない。たとえば、ちょっとした注意とか。
■■■
リーチ君ちが経営する芸能事務所は、若者が多い街にある。おしゃれなビルを借りて、そこで私達に仕事を回したり細かな仕事をしているらしい。
おしゃれなビルなのに中は壁一面にドラマのポスターや雑誌のポスターが貼ってある。それらはすべてこの事務所所属の人が写っているのだ。小学生でも知ってるドラマのポスターもある。そう思うと、私はすごいところに所属したものだと思う。
リーチ君は忙しそうなスタッフの中、まるで社長のように奥の椅子に座っていた。ていうか、そこはやはり社長の席だったと思う。
生意気そうな顔は私を見つけるとにやりと笑う。そしてメロンソーダの入ったグラスを掲げた。
「よっ、メロンソーダ飲むか? アイスもいれてクリームソーダにもしてやるぜ」
「……蘭子さんは?」
「蘭子ねーちゃんは仕事入ったってさ。代わりに俺が話をするぜ」
まずは飲み物よりも仕事の話、と思ったけれど、蘭子さんはいないらしい。代わりに話すのはリーチ君で、となるとそこまで重たい話ではなさそうだ。
「話ってのはこれな」
リーチ君は涼しげなカーゴパンツから紙切れを取り出す。それはメールを印刷したものだった。
届けられたのは事務所のアドレス。送られたのはよくわからないアドレス。
そして本文は
『小夜子は違法薬物常用者。ミロワールに起用すると痛い目をみる』
とあった。
「これ……」
「告発文、のつもりなのかもな。ちなみに小夜子、違法薬物は?」
「頭痛薬なら」
「だよなぁ。だから誰も信じてはいないんだけどさ」
小夜子は私の芸名だ。名字はなく、ただの小夜子。なんでも事務所は私をミステリアスなキャラで売り出そうとしているから、名前しか公開していない。
そしてなぜか違法薬物……
お酒にもタバコにも手を出していないし、小学生にしては所帯じみているという私なのに。
「これが殺害予告とか危なっかしいもんなら警察に届けるんだけど、ただのイタズラだろ。でもねーちゃんは念のため知らせておきたかったんだって。このイタズラ、悪化したらまずいから」
「うん。ありがとう」
「で、話はおしまい。ソッコーでミロワール行く?」
「……行く」
これ以上大人の人が忙しそうにしてるなか、リーチ君みたいに堂々としてられない。叱られるわけでもなく安心したし、私は事務所の邪魔にならないようすぐ出発することにした。
席を立ってすぐ、リーチ君がウエストポーチ以外に紙袋を持っている事に気づく。
「リーチ君、その袋は?」
「お邪魔するからには手土産が必要だろ」
「手土産っ?」
この気づかい、小学生らしくない。しかしそういうものなのか。今更ながら社会見学として必要なメモと筆記具などしか持ってきていない私は後悔した。
「小夜子は別に持ってこなくていーよ。小学生でそこまで気が回る方がおかしい」
「リーチ君、鏡見たら?」
「俺はいーの。なんか内海さんとは最近家族ぐるみの付き合いになってきたから、ねーちゃん達の代理なんだ」
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