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意味はない反省だとしても、それを無視できるリーチ君じゃない。そしてその気持ちは健君も同じようだ。


「あのさ、先生がプリントを無くしたけどちゃんと見つけたって事にはできないかっ?」

「え……」

「先生はプリントを隠したんじゃない。なくしたんだ。勘違いしてたんだ。顧問の先生には、そう話してほしい」


どうしてそんなかばうような事を健君が言うのか。ふつうもっと湖西先生を恨んでいるはずなのに。

でも、彼の声には怒りがない。健君もまた反省しているのだ。

もとはといえば健君が提出物を出さないからだし、息子を思う湖西先生を悪く言う気にはなれないのだろう。


「……まあ、そう見えても仕方のない事だしな。詳細は俺達が黙っていればいいか。海野先生もそれでいいか?」

「ああ、湖西先生も反省している。プリントを無くしたというのも十分よくない話だ。その話で通そう」


リーチ君と海野先生がそう決めるのなら私達は余計な事は言わないことにした。この事件は、湖西先生のうっかりミスから起きただけの話だ。





■■■






そこから私達は予定を組み替えた。


まずは湖西先生の謝罪。健君に向けたものだけでなく、陸上クラブの顧問にも。

年配の顧問の先生はまず湖西先生を叱った。自分がプリントを無くしたのに生徒を疑い罰を与えるとは何事かと叱っていた。

しかし次に叱られたのは健君。そもそもお前が普段から宿題をしてないからだと叱った。

でも大会出場やクラブ復帰は許可してくれた。夏休みの宿題が現時点でほぼ終わらせているというのが大きいのだと思う。

二学期からはもとのクラスに戻れるし、クラスの皆にも今回自分に非があることを湖西先生は話すと言ってくれた。この反省具合ならもう大丈夫だと思う。


健君の問題はこれで大丈夫。しかし気になるのはこれから一人、五年ゼロ組に残される事になった来人君だ。いや、不登校の子とアメリカ育ちの子もいるけど、二学期から登校するかは知らない。


「お前さ、これからどうすんの?」


リーチ君が来人君に尋ねた。今私達はせっかくなので健君のクラブ練習を見に来たついでに宿題をこなしている。ついでに健君の宿題の進み具合も聞いておく。来人君はとっくに宿題を終えていた。


「これからって、これからも一人で池澤先生と勉強するだけですよ。あ、でも二学期からは他の子が来るかもしれないですけど」

「いつまでゼロ組にいるかって話してんだよ。一年生からずっとゼロ組にいるなんてよくないだろ。俺らもゼロ組長いし、元のクラスに戻ってもトラブル起こすかもだけどさ」


リーチ君は深くため息をつく。それから来人君には告げた。


「お前、やろうと思えば普通に振る舞えるだろ。クラスになじむ事だっててきるはずだ」


その言葉で私はリーチ君が何を言いたいかを理解した。もう元のクラスでやっていけるのに、なぜゼロ組にいるのか。

来人君はまともそうに見えてかなりの問題児だ。問題解決のため手段を選ばない所がある。

だが、今回演技をして湖西先生を騙した。その器用さがあれば普通のクラスでもとけこめるのに、なぜまだゼロ組にいるのか。そうリーチ君は聞きたい。


「やだなぁ、リーチ先輩。僕がゼロ組にこだわっているとでも?」

「そう見えるな」


何か言葉に裏がありそうな二人のやりとり。私とたすく君とザクロ君はぴりっとした空気を読んで、黙っておく事にした。


「でも僕はゼロ組でいたい。クラスになじめるっていったって、それはストレスが増えるんです。だったら僕、ストレスの元をなくそうとするかもしれません」


ぞわりと背筋に冷たいものが走る発言だった。そんな発言を笑顔でする来人君。

来人君は確かに演技ができるからクラスになじめる。しかしそれにはストレスが増える。ストレスが増えたら、彼が一年のときのようにいじめっ子を闇討ちしてしまうかもしれない。しかも小五の彼がやることなのだから、もっとひどい事になるだろう。


「……わかった。まだ来人はゼロ組でいればいい。そしてできることなら、その頭をうまいこと使って他の生徒を助けてやってくれ」


リーチ君は諦めたようにそう頼んだ。

私は池澤先生の警戒を理解した。確かに来人君は危うい所がある。今回は私達の味方をしてくれたけど、これからもそうなるとは限らない。

もしもそうなったら、六年ゼロ組が特別課題として動く事もあるかもしれないのだった。



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