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プリント入手作戦決行日は合宿後、そして大会前の日。その日は朝からうまく予定が空いて全員集合できた。

結局肝心な来人君の作戦を私達は知らない。知っているのは考えた来人君と細かいところを直したというリーチ君だけ。ただその作戦を聞いたリーチ君は青い顔して『多分いけると思うけどえげつねえ……末恐ろしい五年生だ……』とだけ言った。

うん。多分大丈夫な作戦なんだろう。


事前にしておくことは、決行時に湖西先生が職員室にいる時を狙う事。そして海野先生も職員室にいてもらう事。なので海野先生はなるべく長く職員室に待機してもらって、湖西先生の行動をこまめに観察してもらう。


「一体来人君はどうやってプリントを手に入れるんだろ……」

「小夜子ちゃんも知らないの?」

「うん……暴力で脅すとかじゃないだろうけど」


身長が高くて目立つ私とたすく君はなるべく職員室の遠くから様子を見ていた。職員室の間近にはリーチ君と来人君が待っていて、そこに近い階段付近ではザクロ君と健君が待機中。鍵となるのは職員室前で待つリーチ君・来人君コンビだ。


そのリーチ君が携帯を手にした。そしてニヤリと笑って来人君の背を押した。どうやら海野先生から連絡がきて、これが決行するチャンスらしい。


様子をうかがっていると、湖西先生が職員室から出てきた。そして担当学年の生徒を見つけたのできまずそうに挨拶をする。それに来人君はにっこりと答えた。


「先生、嘘をついて健君をゼロ組行きにするなんてよくないと思います」


来人君はポケットからひらひらした紙を取り出した。

それはプリントであると、遠くから見ていた私達も気付く。


例のプリントだ。そう気付いた私の頭の中は疑問でいっぱいだった。『どうやって盗んだ?』『鍵は?』『あれだけ盗みはだめって言ったのに!?』と。


しかしそれ以上に混乱したのは湖西先生だろう。青白い顔色で職員室へ戻る。私達も走って職員室に向かって、先生を追った。というよりは来人君を問い詰めたい。

けれど、問い詰める必要はない。


湖西先生は引き出しの鍵を開ける。そこにあったはずのプリントを確認するためだ。しかしプリントはあったのを確認して冷や汗をぬぐう。

そんな湖西先生の背後に海野先生がぬっと現れ、湖西先生の手首を掴んだ。


「提出していないという橘健士郎君のプリントがここにあるようですが、これはどういうことですか?」


普段声の大きい海野先生が湖西先生を静かに問い詰めた。

職員室前の来人君は持っていたプリントをひらひらと振った。

それは私が読書感想文のメモ用に渡した、白紙だったプリントだ。


つまり、作戦はこういうものだったのだろう。

来人君がプリント(?)を湖西先生に見せる。

湖西先生、それを例の健君のプリントが盗まれたと思い込む。

確認しに引き出しに向かう。

その場を海野先生が押さえる。

健君のプリント&湖西先生が隠し持ってるという証拠ゲット。


湖西先生が後ろめたい事があるからこそ、隠し持ってるものをやたら気にしてしまうという心を利用した作戦だ。ただの白い紙を、例のプリントだと思いこんでしまうのだから。

確かにえげつない。しかしいつものリーチ君が考えそうな策でもある。


職員室にはばらばらに待機していた皆が集まった。その中でも健君は呆然とした様子で湖西先生を見つめている。疑われている事には慣れても、ここまではっきり悪事を働かれているとは思わなかったのだ。


「先生、どうして……」


力なく呟く健君。普段から嫌われているわけでもない、いい先生にプリントを隠されゼロ組送りにされたというのはショックなはずだ。

悪い先生ならその先生に問題がある。しかしいい先生なら自分に問題があるように感じてしまう。

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