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志水先生は余計な事を言い出した池澤先生をぎろりと睨んだ。プリントがあるとしたら湖西先生の引き出し。こんな事を言い出すからには確実なんだろう。

ただし鍵がついていて、それをなんとかするということは私達が盗みをするということ。

今まではプリントがどこかに落ちているのではないかと探していた。それは盗みではない。けど人の引き出しにあるものを持ち出せば、それは盗みとなってしまう。


「そういうこった。だから鍵を奪うか鍵を壊すかしないとプリントは手に入らない。けどそんな事をしたら窃盗だ。六年ゼロ組は誰かを助けたいからって盗みを働くような連中じゃないだろ?」


悔しい事に池澤先生の言うとおりだった。六年ゼロ組は結構ギリギリな事はするけれど、こんなあるかもわからないものを盗もうとはしないだろう。


しかしそうなると本当に手詰まりだ。健君にはなんといえばいいのだろう。


「大丈夫です。いざとなれば先生達が海野先生と一緒に湖西先生を説得します」

「俺もかよ、めんどくせー」

「あなたは、教え子がこれだけがんばっているのになんとも思わないのですか?」

「今回は健が今まで提出物出さなかった自業自得だと思うがね」


先生達はまったく意見が合わないようだ。それでも今はその先生達の言葉を頼るしかない。

私はゼリーを持って皆の元に戻った。そして健君のいない時にさっきの話をする事にした。






■■■





「ふむ……プリントが引き出しにあるのはほぼ信じていいが、鍵がかかっていると」


皆でゼリーを食べてザクロ君と健君がプールに向かったのを確認してから、私は先生達から聞いた話をした。あまり良くない状況にリーチ君も悩んでいる。


「うん。きっと池澤先生も釘をさすために教えてくれたんだと思う。ヤケになって盗まないようにって」

「さすがに盗みは良くねーよなぁ。いや、湖西先生だって訴えようがない事だけど、それでも後悔しそうだし」

「先生が説得してはくれるそうだけど、それで大会に出られるとは限らないよね」


たすく君が指摘した通り、大会に出られるかどうかは陸上クラブの顧問次第だ。その顧問の先生がどれだけ話を聞いてくれるか。ちゃんと健君が提出した証拠や湖西先生の不正が表に出なければ、大会出場は確実ではない。


「どうにかして取引ができればいいんだけどな。湖西先生が隠していたプリント差し出したくなるような、そんな取引条件」


つまりリーチ君が言いたいのは湖西先生を脅す材料がないかという事。盗みはしないようだけど、あいかわらずえげつないなぁ……


「僕、なんとかしましょうか?」


手を上げて言い出したのは来人君だった。この状況をなんとかできるという事はすごいのに、ちょっとした雑用を引き受けるかのように言った。私は念の為質問する。


「なんとかって、さっきも言ったけど鍵壊したり盗みはだめだよ?」

「盗まないですよ」

「じゃあなにか取引をするつもり?」

「取引……といえば取引ですねー。大丈夫です、任せて下さい!」


そう言って来人君はどんと胸を叩くが、私達はすごく不安だ。しかし健君の大会出場のためにはそれに頼るしかない。


「わかった。盗みじゃないなら任せる。ただ、その方法は事前に教えてくれ」


リーチ君は来人君に任せる事にした。しかしやはり不安なので、先に方法は聞くらしい。



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