そんな回りくどいごまかし方をする小五はいないと思うけど、湖西先生が実際何かあくどい事をしているのならそう指摘をするはず。やはりなくなったプリントを見つけなくてはいけない。

私は考えていた一つの可能性を指摘した。


「ねえ、そもそも湖西先生が人のプリントを無くしたとして、もしそれが後で見つかったら、プリントは捨てられてるんじゃないかな?」

「ああ、その可能性は俺も考えていた。自分のミスである事に気付いた湖西先生はミスの証拠であるプリントをインペイするはずだ」


隠蔽。そうされたらもう私達にはどうしようもない。健君に大会を諦めて貰って、夏休みの宿題を完成させてもらって、彼を元のクラスに戻してもらう。そんな本来の条件しか達成できない。

しかしふと、私はおかしなことに気付く。


「あれ?でもどうして湖西先生は『夏休みの宿題が出せたら健君を元のクラスに戻す』なんて約束したんだろう」

「え?」

「だって、湖西先生にとって健君は都合の悪い存在だからゼロ組送りにしたんだよね?ならずっとゼロ組にいてもらったほうが都合いいんじゃないかな?」


私が思いついたこととはいえ、それはとても嫌な考え方だ。自分にとって都合の悪い人は隔離したいはず。なのに夏休みまでゼロ組という期間を決めるというのはおかしい。健君がこのまま夏休みの宿題を提出すれば、ゼロ組滞在はほんの数日となってしまう。

リーチ君は私の言葉に少しだけ考えて、そして答えた。


「湖西先生もさすがに悪いとおもっているんじゃないか? だからほぼ夏休みの期間にゼロ組に入れたとか」

「そっか。湖西先生は悪いことをして、開き直るようなひとじゃないよね……」


これが本当に悪い先生だったのなら、健君は絶対に許されない。まともな先生だから解決策を用意してくれている。

……本当にそれだけ?


「そうだ、小夜子ちゃん。そろそろ図書室に行こう」

「あっ、そうだね。健君の読書感想文用の本を探さないと」


たすく君に言われて思い出す。宿題に練習と忙しい健君のため、読書感想文の本も探さなければならない。運動が得意でない私達はザクロ君みたいに練習に付き合えないから、こういうところで協力しようと決めたのだ。

その間リーチ君と来人君はプリント探しを続行。とはいえ休み中の学校はほぼ教室が閉まっているから、今は目星をつけるしかできない。


「私ね、今日アイス作ってきたから。後で健君達を待って食べよう。志水先生が冷蔵庫で冷やしてくれてるの」

「まじで?そりゃあ楽しみだな」


あまり進まないプリント探しに、めげないように私はアイスの事をみんなに伝えた。こういった楽しみがなければ宿題も練習もプリント探しも疲れてしまうだろう。





■■■





次に私が登校したのは、陸上クラブ合宿の前日くらいだった。

プール通いしている健君はかなり日焼けしているが、その表情はすっかり沈み込んでいる。無理もない。クラブの皆が楽しそうに練習や合宿準備をしているのに、彼はそれすらできないのだ。


「二人共、課題の本は読んだかな?」


しかし今は宿題を終わらせる事が何より大事。そんな訳で、私は五年生徒二人の読書感想文指導をする事になった。前にやった作文が私が一番上手だと言うことで、私が担当する事になったのだった。とはいえ、私が学んだのは『小学生女子の興味をひく作文』なんだけど。


「はいっ、僕はもう本を読んで感想文も書き終えてます!」


来人君が自身たっぷりに手を上げて言った。それはすごい。そういえば来人君もゼロ組にいるけどかなり頭の良い子だ。健君と一緒にやってる宿題も順調。なので健君は少し焦りを感じているようだった。


「そっか。じゃあ読み上げてくれるかな?」

「もちろんです。『アイスクリームは溶けたを読んで。赤羽来人』」


まずはタイトルと名前。基本は書けている。『アイスクリームは溶けた』というのはちょっとした謎解きの本だ。




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