「なんで、あんたたちは俺を信じてくれるんだ?」

「うん?」

「誰も俺を信じてくれなかった。いつも提出しないから今回も提出しなかったんだろうって、誰もかばってくれなかったんだ」


クラスメイトからしてみればそうだ。信頼とは普段の行いなのだから。だから今回夏休みの宿題だけは絶対に終わらせようとリーチ君は考えている。もしゼロ組脱出したとしても、信頼がなければいけない。

リーチ君がにかっと笑って答えた。


「そんなの、お前が頑張った事あるやつだからだよ」

「で、でも、俺は宿題を頑張って来なかったのに」

「走るのは頑張ってきただろ。そのがんばりは信用にアタイする」


その言葉を聞いて、私達はほっとした。確かに健君はやるべき事を頑張らなかったから信用されない。けど走ることは頑張っていた。頑張った人間を信用できるというのなら、彼も信用できる。

……まあ、すべての人はそう思う訳ではないのでやるべき事からやったほうがいいけど、それは健君が湖西先生への疑いをといてからでいい。

とりあえず健君は私達を信用したみたいだ。雰囲気がやわらかくなっている。


「宿題、するっ。それで、プリントも見つけて大会に出たい……!」


健君の素直な言葉に私達はうなずいた。

来人君も笑っている。


「だから言ったでしょ。六年ゼロ組の先輩方は頼りになるって」


そんな事を言ってくれる後輩達が見ている前で、かっこ悪い事はできない。プリントは見つけられないかもしれないけど、せめて健君の宿題だけはちゃんと手伝おうと私達は決めたのだった。





■■■





「いいか、まず夏休みの宿題で手をつけるのは暗記物だ」


リーチ君がまず夏休みの宿題攻略法を語った。

夏休み初日。登校日として自主的に登校した私達はクーラーのきいた教室内で集まっていた。

許可はとっている。登校日は志水先生の出勤する日ならいいとのこと。だけど念の為に池澤先生にも許可をとる。すると池澤先生の出勤する日にも集まる事が出来るようになった。その協力的な態度は意外だ。


後はその中からプールや図書館の開放日など、便利な日を選んで、そこを登校日にする。元からたすく君は夏休み中も図書室通いしていたし、ザクロ君もプール通いしていたからだ。私はモデルの仕事優先で登校。だから居なかったりすることが一番多くなるだろう。


「宿題は暗記物の覚えている部分だけを書くんだ。授業したばっかで覚えている所が多いうちにな」

「なるほど……」

「それがおわったらわかんないとこを調べつつやれ。わかる問題で調子つけとくとすごく早くできるからな。あとおさらいテスト対策にその部分をチェックしとくといいぞ」

「算数とかはどうするの?」

「算数は最後の方で一気にやる。あれはどうせどこかは忘れてるし、一度つまずくとやばいから一気に確実に終わらせる」

「リーチ君すごいね。そんな方法まで編み出しているなんて……」

「まぁ、俺は夏休みのプロだからな。夏休みも六回目だし」


六年生の皆は夏休み六回目だよ、とつっこむのはヤボかもしれない。

しかし実際リーチ君の攻略法は参考にしておく。

健君の進み具合は順調だった。やはり頭が悪い子ではないのだろう。ただ、プリントの管理ができなくてランドセルのなかでグシャグシャにしてしまうタイプのようだ。しかしその辺はファイルと宿題専用鞄を用意した。これなら鞄の管理さえしていればなくさない。


「よし、今日の所は終わったな。じゃあ健とザクロはプール行け」


わかるところだけを書き込んだプリントの束を見て、リーチ君が次の指示を出した。

私達の登校日をプール開放日に選んだのには理由がある。それは健君の練習のためだ。


なんとか大会に出たい健君だけど、それまでクラブに参加できないので練習はできない。涼しい教室で勉強ばかりでは体力も落ちる。なので水泳だ。それもザクロ君と一緒に。これなら体力が落ちることはないし、たまにサッカーや他球技クラブに混ぜてもらうことにしたらしい。

運動の得意なザクロ君がついているのならきっと鍛えられるだろう。


そんな訳で教室に残ったのは私とリーチ君とたすく君。それと別にいいのに手伝ってくれている来人君だ。健君がいないのでなくなったプリントの話をする。

まずは海野先生について、受験クラスにたまに顔を出しているたすく君が語った。


「海野先生だけど、プリントを提出しに来た健君の事を見てたって。必要なら証言もするし、教室内にプリントがないか探すって言ってくれたよ」


良い知らせにたすく君も私達も顔つきが緩む。やはり海野先生はまともな先生なので協力的だ。


「海野先生の証言はありがたいな。あの先生、先生に好かれる先生だから」


どういう訳か小学校の先生というのは明るくて元気な子を好む。いくら成績がよくても暗くて不健康だと駄目らしい。そしてそれが同僚にもあてはまるのか、声が大きい海野先生の証言は先生達には通用するだろう。


「ただ、その証言だけじゃ弱い。健が『プリントのようなものを提出した』とだけで、『ただの紙切れをそれっぽく提出してギソウしたんじゃないか』と疑われたら終わりだ」





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