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「普通に考えたら湖西先生が健のプリントを無くしたとかだな。湖西先生みたいな親が偉いエリートはそんなの認められない、だから健が提出していないって事にした。でもそれがバレたら困るから健をゼロ組送りにした、と考えるとツジツマがあう」
おお、と私はリーチ君の推理に感心した。ずっと違和感があったけどそう考えると自然だ。湖西先生はまともな人だけど、まともすぎて失敗ができなくなっている。だから自分の失敗を健君に押し付けようとしたのかもしれない。だから『健君がプリントを出さなかったし出したと嘘をついた。だからゼロ組行きにして文句は聞かない』なんて考えた。
「もう少し詳しい情報知りたいな。先生に手渡ししたのか?」
「……違う。提出しに職員室に行ったけど、湖西先生がいなかったから。だから湖西先生の机に置いたんだ」
「それは……」
私達は不安そうな顔を見合わせて何も言えなくなった。なくしても仕方ない。というか、実は提出していないと疑われて当然の結果だと思う。普段提出物を出さなかったという健君が嘘をついたと思われても仕方ない。
「俺っ、提出した時に他に先生がいて、湖西先生の机の位置を聞いたんだ!だから嘘じゃない!」
「なるほど、その先生が証人って事か。その先生、名前はわかるか?」
「名前は知らない。けど六年の先生だ。体が大きくて、声も大きい。やたらうるさい……」
「海野先生か!」
海野先生という証人がいたのなら、事態は良い方向に進む。海野先生は確かにやたらうるさいが、その考え方はまともだ。受験対策のため五年にも顔を出しているから、きっと健君の事を覚えてくれているはず。
「じゃあいざというときは海野先生が証人になってくれるとして、プリントは机の上に置いたんだな?」
「うん。それで風に飛ばされないようにペン立てをその上に置いたんだ。だからなくなったなんてありえない」
「ペン立ての下なら何かに紛れることはないよなぁ」
本を重石がわりに使っていたのなら、本に紛れてもおかしくはない。でもペン立てならそうじゃない。湖西先生か誰かがプリントを隠したという考えになる。
「健、陸上の大会はいつだ?」
「夏休みの終わり。八月二十五日」
「ならいけるかもな。それまでにプリントを見つけ出して、湖西先生にゼロ組行きを撤回してもらおうぜ。で、陸上に復帰させる。そうすりゃ大会には出られるはずだ」
「え……」
私はリーチ君の発言に面食らう。これはいつもの六年ゼロ組の特別課題だ。内容は健君のプリントを見つけ出し、湖西先生に反省させて健君を元のクラスに戻してやる。そして陸上クラブの顧問に大会参加の許可をもらう。だから大会までにやらなくてはならない。
でもそんなの、ほんとうにできるの?
「いけそうなら合宿前に見つけてやりたいけど、それは厳しそうだ。夏休みの宿題だってやらなくちゃならねーし」
「夏休みの、宿題?」
「大会は夏休みの終わりなんだろ?それまでに終わらせるんた。プリントの件はヌレギヌだけど、お前が提出物出さなかったのは本当なんだろ。だからこれだけはやんねーと」
「でも、宿題やってもまた認められなかったら……」
健君は希望から明るくなったが、すぐに沈む。これだけ健君がやるべき事をしたくないというのは、湖西先生に裏切られたからだ。
せっかくやったプリントを認められなかった。なら次に何かしたってまた認められない、なんて考えてしまうのかもしれない。
「大丈夫だ、俺たちがお前が頑張ったとこをずっと側で見ててやる」
「え……」
「一緒に宿題しよう。場所は学校で、夏休み中に皆で何度か集まって宿題を早めに終わらせる。ついでにプリントを探す。できるか?」
リーチ君が健君の背中を励ますように叩いた。
私達がついて一緒に宿題をする。それなら私達が健君の頑張りを見続ける事ができる。その記憶はプリントのようにはなくならない。
ただ、健君は私達を信用できない様子でじっと見回した。
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