2
健君は見たまま、素行不良からゼロ組にやってきたのだろう。そんな容姿と調子だ。
「健君は成績悪くてゼロ組にきたんですよー」
来人君が言わなくていい事を言った。凍りつく私達。ぎろりと来人君を睨む健君。同じ教室というのにまったくこちらに興味を見せずプリント作成する池澤先生。
かけ算もできない生徒が隔離されるという噂のゼロ組にだけど、まさか本当におばかな子がゼロ組にいるなんて……
「おいっ、言っておくけど俺は勉強が出来ないんじゃなくて、宿題出さないからゼロ組に来たんだからな!」
「つまり成績悪いってことでしょ?」
「全然違う!俺はそこまで馬鹿じゃない!宿題をしないだけだ!」
「宿題してないのなら馬鹿だと思うけどなー」
見ているとはらはらしてくる五年生二人のやりとりだった。見た目は真面目そうな来人君だけど、彼はかなりの怖いもの知らずだ。健君みたいな悪そうな同級生にも容赦しない。
一方健君は見た目よりは優しいのだろう。これだけぎたぎたに言われても殴ったり掴みかかったりしない。馬鹿じゃない、というのも間違ってはいないようだ。本当に馬鹿なら否定もしない。ただプリント提出をしないだけなのだから。
「宿題、ちゃんと提出しなかったの?」
たすく君が健くんに視線を合わせて柔らかく尋ねる。
提出物は成績として大事だ。いくらテストが良かったって、ちゃんと宿題を出さないと通知表でいい成績はつかない。あと授業中の挙手とかの積極性も必要。
健君はこんな性格だから授業の積極性もなくて、提出もしなくて、たとえ頭の出来が良かったとしてもかなり成績を低くつけられただろう。だからゼロ組行きとなった。
……ただ、ゼロ組は隔離するためのクラス。隔離しなきゃいけないほど生徒というには、健君のゼロ組行きはちょっと違和感がある。提出物を提出しないことで、誰か他の生徒が迷惑するとは思えない。授業についていけないわけでもないし、授業を妨害するような事でもないのだから。
まぁ、ゼロ組に関しては健君の本来の担任の気持ち次第なわけで、『先生が嫌いな生徒』がゼロ組行きになる事もあるだろうけど。
「あんたには関係ないだろ」
健君はたすく君に冷たく言った。細かな事情までは話してくれない。しかしかわりに話してくれるのが来人君だった。
「でも健君、陸上クラブの夏大会と夏合宿に参加できないんですよ。ゼロ組だから」
「てめっ、来人!勝手に事情をベラベラ話すな!」
「陸上クラブ、顧問の先生が厳しいんです。ゼロ組嫌いだから、ゼロ組にいる子はクラブ禁止なんですって」
「だから言うなって!」
私は運動部に詳しいザクロ君にこっそり尋ねる。
「陸上クラブって厳しいの?」
「サッカーよりは。個人競技と団体競技は違うから。サッカーとかは人数足りなくて僕に声をかけるほどだし」
そういえばザクロ君はゼロ組だけどサッカーの助っ人をしてた。それはメンバーが足りないから。
けど健君の陸上クラブはほとんどが個人競技。健君がいなくなっても困らないというか、むしろ枠があいて喜ぶ部員もいるかもしれない。
だからゼロ組在籍中はクラブ活動禁止が言い渡されてしまった。
「健の場合、ちゃんと提出物を出せばもとのクラスに戻れるぞー」
今まで会話に関わることのなく書類仕事をしていた池澤先生が、急にそんな事を言い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます