五年零組の夏休み


アレンジした制服にもなれた頃、六年生の一学期は終了しつつあった。夏休みという言葉を見たり聞いたりする度に待ち遠しいような惜しいような気分になる。

ゼロ組で勉強して三ヶ月ちょっと。クラスの皆に会えなくなるのは少し寂しい。けどお休みならたくさんお仕事ができる。 


「今日は五年ゼロ組の方に行っててください。話はしてありますので」


清水先生は教室に顔だけを覗かせるようにそれだけ言って、すぐに去って行った。きっと学期末だからいつもより余計に忙しいのだろう。先生がいつも用意している自習プリントもないし、様子を見に来る事すらできないようだ。


私達は筆箱と一応ノートだけを持って一階下、五年の教室へと向かった。

ゼロ組は他学年のゼロ組同士の交流がある。というか用事を押し付けられて席を外しがちな担任が協力しあうためだろう。先生がどうしても指導できない時のため、よその学年に任せるのだった。そして一緒に勉強したり遊んだりする。そうなると上級生が下級生に教える事が多い。


「ひさしぶりだなー、今の五年のゼロ組」


リーチ君が楽しそうにそう言ったということは、私がゼロ組に入るまではよく交流していたのだろう。そんな事が言えるあたり、やはり五年ゼロ組もとんでもない問題児ではなさそうだ。

忘れがちだけど、本来各学年のゼロ組とは問題児の集まりだ。六年ゼロ組がまともな人がいただけで、五年がそうとは限らない。とりあえずリーチ君はかわいい後輩に会いにいくみたいな反応をしていたし、たすく君はにこにこしているし、ザクロ君はお面しているしで、そう悪い子達ではないのかもしれない。


そしてやってきた五年ゼロ組は生徒が二人しかいなかった。


「あー、今日は六年生が来るからな。お前ら勉強教えてもらえよー」


五年ゼロ組の担任の、池澤先生は非常にやる気のない先生だった。洗濯はしてあるがくしゃっとしたシャツだし、いつも寝ぼけた目をして頭には寝癖がある。そして私達の面倒を見る気のなさそうなこの態度。

ただ、ゼロ組担任は『先生に嫌われる先生』が任せられる事が多いけど、それは『ダメな先生』じゃない。いろんな仕事をおしつけられるような先生というわけだから、見た目よりはちゃんとした先生なのだろう。


「あいかわらず池澤先生はやる気ないなー。ていうか今日は五年二人だけか。しかもそっちは新顔だな。まずは自己紹介でもしとく?」


池澤先生の仕切りは期待できないため、代わりにリーチ君が仕切る。すると赤毛でメガネをかけた男の子が勢いよく手を上げた。


「はいはいっ、僕は赤羽来人ですっ!六年の皆さんにはいつもお世話になってます!小夜子先輩ははじめまして!今日も制服の着こなしがかっこいいです!」


積極的なメガネ男子が来人君……と私は今覚えた。けど私と彼は初対面だ。なのにこの知られているかんじはどういう事だろう。


「来人は俺達を憧れてんだよ。当然最近小夜子がゼロ組に入ったことも知ってる。俺らにもやたらかしこまってるんだ。まぁ、ファンみたいなものだと思え」


リーチ君が私の疑問に聞かれずとも答える。

ファンと聞いて確かに納得した。小学生なんて高学年相手でも敬語使わないものなのに、それを使ってキラキラした目で私達を見てる。

それもリーチ君達への尊敬からだろう。確かに六年ゼロ組はいろいろやっているし目立つから、ファンがいてもおかしくはない。


「ええと、来人君はいつどうしてゼロ組に?」


私は気になってそんな質問をした。

やたらかっこいいことをやっているゼロ組だから、憧れる下級生がいてもいい。しかし憧れからわざとゼロ組に入ろうと悪事をしてはいけないと思う。だからその事を確認したかった。


「一年生の頃に数人に囲まれて殴る蹴るの暴力を受けたので、仕返しに皆が一人になった時をねらって暴力振るいました!」


明るく語る来人君が怖い。

一年生でゼロ組入りって、かなりやばいと思う。でもどう考えても最初に大人数で危害を与えた子達が悪いのにその子達はお咎めなし、しかし仕返しした来人君がゼロ組入りさせて今まで許さないというのはいかにもこの学校らしい話だ。

そして、一年生の話ならリーチ君達に影響されてのゼロ組入りではない。その事がわかって安心したような、恐ろしいような。


「そっちは新入りだよな?名前は?」


来人君の自己紹介が済んだところで次はその隣の目つきが悪い、ツンツン頭の男子にリーチ君が尋ねる。

ツンツン頭はそっぽ向いて答えた。


「……橘健士郎」

「はいっ、健君って呼んであげてください。健君は最近ゼロ組にきたんですよ。まだ慣れてないので仲良くしてあげてくださいねっ」


健君がそっけなく自己紹介をして、来人君が丁寧すぎる程に付け足す。


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