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「そう、かな……」
「そうだよ。だって小夜子が一番似合ってるんだから」
お父さんは自信を持って言うが、親ばかだと思う。
確かに制服アレンジは流行っているけど、それを見て私が発信源と考えるのは買いかぶりすぎだ。
「作文、良かったよ。小夜子はこんな風に周囲に影響を与えてモデルになるんだね」
「……いいの?」
「何が?」
「お医者さんとか、ならなくて」
声が震えるが、私は今聞かなくてはならない。
しかしお父さんは笑顔で頷いた。
「小夜子がなりたい職業が一番だよ。確かに小夜子は医者になれる環境にあるし、おばあちゃんなんかはうるさく言うかもしれない。けどお父さんは応援する」
「ほ、ほんとう?」
「本当だよ。これから先はわからないかもしれない。けど、頑張った人は後からでも何だって頑張れるんだ。だから今は、自分ががんばりたい事を頑張ってみなさい」
その言葉には私への信頼がこめられていて、なんだか嬉しかった。
頑張った人はこれからどんな事でも頑張れる。逆を言えば、頑張った事のない人はこれからも頑張れない。
お父さんは私がなにかを頑張ったとわかっている。だからその頑張りを信用して、判断を任せてくれているのだ。
「あっ、これ父の日のプレゼント。モデルのお給料で買ったんだよ」
思い出して、プレゼントを渡した。モデルの報酬で買ったものなのだから、絶対に渡しておきたい。
けれどお父さんはプレゼントを受け取らなかった。なぜならば泣いて、その涙を拭うのに忙しかったからだ。
「お、お父さん?」
「ごめ、さっき、さんざん、泣いたはずなのに……」
「さっき?」
「トイレで……小夜子の作文で、涙腺を崩壊されて、」
私の作文で!?
そんな泣くような感動話でもないのに。
でも、教室からすぐいなくなったのはそういう事だ。泣くのを見られたくないからトイレで泣いていたのだ。
「小夜子は、僕の娘のわりにいいこすぎる……」
「『わりに』って、お父さん、そこまで悪くはないと思う……」
浮気から離婚はしたものの、お父さんはそこまで酷い人ではない。ちゃんと謝れるし責任を取ることもできる。
ただ女の人にモテすぎて、優柔不断なだけ。
こんな事ならハンカチの方がプレゼントに良かったのかもしれない。
制服と父の日。どちらも悩んでいた以前よりずっと苦手意識がなくなりつつある六月だった。
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