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普段やさしい、というかめったに口論をしないうちのお父さんなのにしゃべりで優位に立っている。川崎先生も押されている様子だ。
そういえばお父さんも私同様、小さい頃から背が高かったという。だから制服は横にぶかぶかか袖や丈が足りないかのどちらかだったらしい。今より昔だから周囲の理解もなくて、きっと苦労をしたはずだ。
「で、でも、小夜子さんのせいで制服をちゃんと着ない生徒が増えて困っているんです」
「うちの小夜子はモデルになるんです。周囲に影響を与えて当然でしょう!」
普段怒鳴らないお父さんが珍しく怒鳴った。それでも迫力はあまりないけれど。
でも、私は確かに聞いた。私がモデルになるって。
てっきり習い事程度に思われているのかと思ったのに、作文をちゃんと聞いていてくれたようだ。
「人は、誰しも影響力を持ってます。先生だってそうでしょう。貴方を真似て、模範的な行動をする生徒もいるはずです」
そう言われては先生も悪い気はしないだろう。川崎先生は反論をやめた。でもお父さんは適当によさげな事を言っているだけだ。
「それと同じように、うちの小夜子はおしゃれに関する影響力があるんです。影響があるなら真似される、なら学校側がちゃんと制服のサイズを作れば模範的な着こなしが流行るのでは? だいたいうちの小夜子がジャージで登校した日にはかっこよすぎて学校内でジャージが流行って誰も制服を着なくなりますよ」
親ばかすぎるお父さんの言葉に恥ずかしくなった。
人が人に影響されるのは仕方ない。いい影響も悪い影響もある。
私の制服アレンジは流行ってはいるけれど、そもそも学校がもっといろんな子に合わせて制服を作ればいい話だ。
「……いいですか、小夜子さん。制服の改造は認めましょう。ただし常識の範囲内で、です」
川崎先生は珍しく折れてくれた。それも周囲に保護者がいるからだろう。下手に騒いで自分や学校に嫌な印象を与えたくはないはずだ。
そして怒りを足にぶつけるようにのしのしと職員室へと戻ってゆく。
「お父さん、ありがとう」
そうして落ちついてから、私はお礼を言った。
「いいんだよ。小夜子の気持ちもわかる。制服ってすぐ小さくなるよね。そもそも僕らにベストサイズの服って、なかなかないよね」
「……うん」
サイズの大きな服を買えばいい話だと思われがちだけど、そういう服は横幅も大きい。つまりぶかぶかだ。
それにこういう悩みを口にした所で普通の人には『背が高いと何でも似合うんだから贅沢な悩み』として終わられてしまう。
だから私とお父さんは今すごく共感できてしまう。
「それに、校舎に来るまでに制服アレンジした子が何人かいたから。小夜子を見て小夜子の影響なんだなと思ったんだ。それは普通の人にはできない、すごいことだと思うよ」
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