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「今日は国語の授業で作文の発表をします。テーマは『将来の夢』です。ポイントは『何になりたいか』と『どうしてなりたいと思ったか』です」


今日ばかりはリーチ君も真面目に授業を聞いている。いつもは色々と口をはさむのに。


「ちなみに先生は中学時代に出会った友人のおかげで教職をめざし、今こうしています」


にこりと語る志水先生の言葉。それは私達も最近知った事だ。

それにしても『友人』って。でも加々美さんなら喜びそうなものだけど。


「では、まずザクロ君から読んでもらえましょうか」

「はい」


お面なしのザクロ君は天使のような顔と声で作文を読み上げた。


「僕の将来の夢。それは彫刻家になる事です」


そうして授業参観が始まった。





■■■





将来の夢。まとめると、ザクロ君は彫刻家、リーチ君は番組プロデューサー、たすく君は歴史学者だった。そして私はモデル。

ある程度は予想はできたし、下書き段階で読んだ事もある内容だ。

皆完成度は高く、先生もコメントや拍手をはさみながら授業を進み、ちょうど四人の読み上げで授業は終わった。

そして解散になって、私はすぐに後ろを振り向いた。お父さんにちゃんと声をかけてプレゼントを渡すためだ。

しかし、教室後方にお父さんの姿はなかった。


「あれ?」


あわてて教室を出て廊下の左右を確認する。しかしお父さんの姿はない。


「小夜子ちゃんのお父さんなら、授業が終わってすぐに出ていったよ。お話したかったんだけどなぁ」


社長……じゃなくてリーチ君のお父さんがそう教えてくれた。

出ていった?そんな、ちょっとは話す時間があると思ったのに。


まさか私がまだモデルしながら考えたいという作文を書いたから、だからお父さんは気に入らなくて、すぐさま教室を出ていったのだろうか。


やっぱり、お父さんは私に医者になって欲しかったのかもしれない。

慌てて私は教室の外を探す事にした。

改めて今ちゃんと話さなくてはいけないと思ったからだ。


とはいえ、参観が終わった校舎はとても人が多かった。普段子供ばかりの廊下に大人が溢れている。皆楽しそうに子供や保護者と話し込んでいる。背の高いお父さんはその中でも見つからなかった。


「ちょっと、小松さん」


そこへ鋭く声をかけられ、私はぴたりと固まった。

この高くて怒鳴られた思い出しかない声。私の元担任である、川崎先生だ。


「なんなの、その格好は。どうしてちゃんと制服を着てこないの、今日は参観日なのよ」


どうやら川崎先生は私の制服アレンジを注意しようとしているらしい。

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