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その日の朝は私もお母さんものんびりとできた朝だった。

制服アレンジにもなれた頃だ。まだ六月とはいえ朝晩は肌寒いので厚着するくらいでちょうどいい。

焼いたトーストにジャムを塗っているとお母さんがコーヒーを飲みながらとんでもない事を言った。


「次の参観日、お父さんが行く事になったからね」

「えっ、お父さんが参観日に来るの?」

「そうなの。お母さん参観に行けなくなってね。だからお父さんに声をかけたら乗り気でね」


お母さんはお父さんとは離婚しても連絡はとりあっている。その連絡というのは私絡みの事だからだ。

それにしてもお母さん、来れないとは思っていたけどまさかお父さんに任せるなんて。


「お父さん、来るんだ……」

「あらあら嫌なの?反抗期なの?」


つい出てしまう私の言葉に、何故か楽しそうなお母さん。子供の成長はたとえ逆らっても可愛いものだからだろう。


「……ううん。じゃあお父さんにもゼロ組の事はちゃんと言っておかないと、って思っただけ」

「あ、そうね。私からちゃんと説明しておくわ。本当なら私が行きたいんだけどねぇ」

「私は大丈夫。お母さんはお仕事でしょ。がんばってきて」


そう言うとお母さんは瞳を潤ませる。よほど娘の物わかりのいい言葉が嬉しい、もしくは自分が情けないのだろう。せっかくお化粧したのに崩れてしまうから泣いてはいけない。


朝食を食べると日焼け止めを塗るなど身だしなみの仕上げをする。そしてランドセルを背負って、バス停まで歩いた。

そのバス停には、すで制服をアレンジした初等部生徒が何人かいた。腰にカーディガンを巻いたり、レギンスを履いたり。

もしかしたら今初等部では制服アレンジが流行っているのかもしれない。その流行の発信源が私かどうかはわからないけれど。


バス停で待つ背が高い男性を見て、私はお父さんのことを思い出した。

お父さんが参観日に来てくれるだなんて、やっぱり微妙だ。作文もどうしよう。お父さんがそれを見るのなら書き直した方がいいのかもしれない。

けれど思い出すのは私の作文を試しに読んでみた先生達の姿。

皆色々とアドバイスをくれた。それを『お父さんが来るから』という理由でなかった事にはしたくない。


作文はそのまま、医者になる気はゼロの内容で行こう。

私の将来の夢はこのままモデルを続ける事。そうしてなんらかの資格や技を手に入れて、別の仕事へ繋げたい。

作文はこのままでいい。お父さんには文句を言われるだろうけど、それだけだ。

……あ、いや、学費を出してもらっているのならスポンサーのようなもので、スポンサーに逆らったら資金提供はなかった事にされてしまう。

つまり小学校を変える事になるかもしれない。けど、その時はその時だ。

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