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小さい女の子はとにかくよく喋る。隙あらば無理やりに自分の話に持っていく。そんな女の子が黙って聞いていられるような話なら、きっとおもしろくうまい話に決まっている。

一方小さい男の子は……偏見だけど話は聞かないし下ネタに結びつくような単語があれば反射的に反応して騒ぎたてる。

だから志水先生は『女子児童』と限定しただけで、決して本人の趣味じゃない。


「私はこの方法で論文系の課題で高評価を得ました」


趣味じゃない、よね?

うん。まぁ相手の興味をひく話ってのは大事だと思う。

さっそく私達は作文を書くことにした。私の将来の夢はまだ決まってはいないけど、昨日リーチ君としたような内容をうまく繋げればいい。

このままモデルを続ける。そして他の事にも興味を持って、モデルだけにならないようにする。しかしそれを女子児童が聞きたがる話にするのはなかなかむずかしそうだ。


「ダメですねー、つかみが甘過ぎです。これじゃ女子児童はプレキュアの話をしだしますよ」

「くっ、俺の話はプレキュア以下だってのか!」


リーチ君の作文はさっそく志水先生に酷評されてた。

確かにつかみが弱いともう好き勝手に話をしちゃうよね女子児童。






■■■





「作文って難しいね……」


授業が終わるとたすく君がかなり疲労した様子で呟いた。

女児の興味をひく内容。難しくてはいけないし、そして興味をひき続けなくてはならない。それはただ適当に言葉を並べてきた作文なんかよりもよっぽどむずかしい。


「小夜子ちゃんはわりとすらすら書けてたよね。脳内女子児童も真面目に聞いてるって先生も評価してたし」

「あ、うん。前に考えていた事だから。それを組みなおせばいいし」


どうやら私は作文が得意らしい。というか、女子児童という判断基準なら私も一応は女子児童なのでそこに含まれる。幼い自分がおもしろいと思うような内容を考えればいい。


「そういえば小夜子ちゃん、制服変えたんだね。似合ってる」

「ありがとう」


たすく君はさりげなく褒めてくれた。

今日の私は制服のワンピースの襟をあけ、見えていいキャミソールを見せ、そして黒レギンスをはいていた。

制服だけど制服じゃない。私の体にぴったりくるようなアレンジで、だからみじめな気持ちはふっとんだ。

登下校中のバスの中でも学校でも変な目で見られない。


「僕もそろそろ中等部の制服に変えようかな。いいかげん、足がきついんだよね」


私は机の下のたすく君の足を見た。

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