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うんうんとリーチ君は頷く。優しいのは勿論いい事だ。しかしその優しさが優柔不断に繋がる。ただでさえモテるお父さんが、女の人に言い寄られてきっぱり断れるはずがない。


「お母さん、本当は離婚したくなかったの。でもお父さんの浮気相手の女の人達に離婚迫られて、うちなら慰謝料いくら払うだとか連れ子OKだとか競争するように言い出して」

「……相手もやっかいそうな人達なんだな」

「そう。だから私やお母さんが危ない事になるんじゃないかと思って離婚したの」


お父さんを好きな人は複数いて、皆がそれをわかっているため常に競っていた。お父さんがお母さんと離婚しても、自分が次に結婚できる保証はない。

だから『慰謝料は私が出すから別れて』となって『連れ子いたっていいから別れて』になって『小夜子ちゃんは私が大事に育てるから別れて』と皆が好条件(と本人達は思っている事)を出した。

まだ離婚も決まっていない時の話で、私やお母さんの気持ちは一切考えていない要求に私達は怖くなった。下手したら私は『一緒に住んでくれたら私の良さがわかるかも』なんて言われて私が誘拐とかされるかもしれない。お母さんがひどいことをされるかもしれない。

浮気相手は早くから好条件を出して自分を選んで欲しいのだろうけど、話が飛躍しすぎている。


「だからトラブルを防ぐために離婚したんだって。それでお父さんに生活費や学費は全部払ってもらってるし、お父さんにもたまに会ってるの」

「お父さん、再婚は?」

「してないみたい。おばあちゃんに『あんたは結婚すると人を不幸にするからもうやめときなさい』って言われたらしくて」

「ケンメイな判断だな、ばーちゃん」


多分、お父さんは誰と結婚したって浮気する。なんでか熱狂的に女の人に好かれて断れないのだから、もう再婚しない方がいい。


そうしてこの問題はゆるやかに解決……したけど、私はちょっと困っていた。


「ゲスな父親だったら堂々と嫌えるけど、そうじゃないから小夜子は困ってんだな」

「……そういうこと」

「で、プレゼントは渡したいとか考えてるんだ?」

「うん、初給料貰ったし」


私がモデル事務所に契約するようサインしたのはお母さんだけど、一応お父さんには許可をとった。お父さんは認めてくれた。ただ二人は私を医療関係者にしたいららしくちょっと不満そうだったけど。


「親父さん、多分小夜子の事がすごく好きなんだろ。だったら何やっても喜ぶと思うな」

「そうかな。……ちなみにリーチ君は何か父の日にあげたりするの?」

「うちは肩たたき券。毎年、母の日も同様」


へらっと言うリーチ君だけど、普通の男子ならそんなものかもしれない。

そもそも私がリーチ君に聞いたのも、お父さんがいる子だからだ。

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