ゆううつな六月

1


六月。それは私にとって梅雨なんかより厄介なイベントのある季節だった。

それは衣替えと父の日。衣替えは去年の夏服がまた短くなるし、父の日は父がいないから居心地が悪い気分になる。


「小夜子さぁ、そのスカート丈やばいな」

「うん。私もやばいと思ってる」


朝から零組の教室で一緒に悩んでくれているのは、眩しいまでに白いシャツの夏服が似合っているリーチ君。

トレードマークとなりつつあるパーカーはしまってはいるが持っていて、冷房対策に着るらしい。

一方私はぴちぴちつんつるてんな水色木綿のワンピース姿。とくに足はほぼ出てしまっていて、なんだか可哀想な人感がすごい。


うちの小学校の制服はワンピース。冬服のワンピースは下にブラウスとペチコートを着る。 普通なら膝下でふわっとしたスカート丈が子供らしくて可愛いのだろう。しかし私の身長は165センチ。そこらの大人よりずっと大きい。

だから最大サイズの制服であっても私にはきついものだった。

冬服のときはペチコートを可能な限り下にずらしてはいたりしてなんとかなっていた。しかし夏服では軽やかな水色の生地一枚だ。

本来は膝下丈なのに、私だけミニ丈。それに夏特有の生地の薄さもあって色々と頼りない。


どうにかならないのか。そう思っていると教室に早めに志水先生がやってきた。 先生も夏服で軽やかな半袖ブラウスに膝丈スカート。ふだんは降ろされていたセミロングの髪もまとめ髪となって爽やかだ。


「おはようございます……小夜子さん、その制服やばいですね」


志水先生、やってきてすぐこの言葉だ。まともな大人なら皆そう判断するやばさだろう。

先生は心配そうに私に駆け寄った。


「あの、私服登校許可証があるんです。小夜子さんはそれを学校に提出してはどうでしょう?」

「シフクトーコー?」

「本来は怪我したりして、事情あって制服が着れない子が使う権利ですね。骨折などして制服が着にくい場合、私服で通う事ができます」


先生は先生らしく学校と生徒にある権利を教えてくれた。

そうだ、確か手足を骨折した子とかはジャージで学校に来てた気がする。


「男子で身長170センチを越えた子も半ズボンが厳しいからと中等部のズボンをはいてたりしますし、許可さえとれば制服を着なくていいですよ」


高身長男子の方が小学校制服は辛いかもしれない。何しろ大人の体型で冬でも膝出た格好なのだから。私なんてミニスカみたいなものだと思えばまだマシだ。


「わかった。小夜子はそれを提出したらいいんだな。で、明日から何着てく?なんならミロワールの服着ていこうぜ」


にやりと悪い顔をしてリーチ君が言った。ミロワールの服を学校に行ったら目立つ。リーチ君、目立つ事が大好きだからそんな提案をするのだろう。私以上に楽しそうだ。


「私服登校可だとしても華美な服装はいけませんよ。ジャージ……はないにしても制服っぽい格好なら許されると思います」


志水先生も少し楽しそうに注意する。しかし私は私服登校には気が乗らなかった。


「あの、制服っぽい格好って真面目そうなブラウスやスカートですよね?先生みたいな」

「ええ」

「それにさらにランドセルを背負う、というのはちょっと……」




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