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二人を怒らせたら殴られるかもしれない。そう思うと返事もできなかった。


「なぁなぁ、良かったらさ、俺らとお話しない?」

「ジュース飲みたいの?なら奢ってあげるよ」


中等部男子二人は急に猫かぶったような優しげな声を出す。

こんな時だけど、私は志水先生の話を思い出した。下心から来る優しさは本当の優しさを知らないと見抜けない。

私はゼロ組の皆に優しくされた。だからこの誘いがいくら優しく聞こえても、ついて行ってはいけないとわかる。


しかしこの場をどう切り抜ければいいのか。

迷っているうちにぺたぺたとしているが激しい足音が近づいて来た。


「この子にっ、なんの用です!?」


激しいぺたぺたは志水先生のスリッパの音だった。

普段おしとやかで声をあらげる事もない先生が、私の危機に気付いて助けに来てくれた。


「私はこの子の担任です。用があるならまずは名前とクラスと担任を言いなさい!」


志水先生は男子二人を睨み付けつつ厳しく問う。

しかし男子二人は顔を見合せるだけで何も言わない。できたらさっさと諦めて立ち去って欲しいが、それもしなかった。


どうして逃げないのか。まさか初等部の先生ぐらいで退く気はないのか。

不安に思っている所で、新たな声が割って入る。


「はいはい、そこまで。さっきから見てたけど、とりあえずこの中学生が悪いみたいだね」


内海さんだった。内海さんはかっこよく私達の間に入る。

それについて来るような形で加々美さんも来た。志水先生の前へ、しかし志水先生は見ないように庇い立つ。


きっと加々美さんは私や志水先生の危機に、色んな迷いを捨てて姿を見せてくれたのだろう。


「女の子の体の事で騒いだり、そのままどこか連れて行こうとして、誤解も何もないよね」

「あ、あなた達は……?」

「卒業生、だよ。でも先生が走って来たから先生に任せようと思ったけど」


内海さんは顔だけ後ろを向いて先生に向かってウインクする。先生は状況がよくわかっていない。先生は内海さん達の事を先輩だったなんてまったく知らないのだから。


「さて、君たちが逃げる時間はいっぱいあったはずだ。それでもここに残るって事は、何か文句でもあるのかな?」


残ったまま、顔を見合せる男子二人に内海さんは問いかける。

本当に悪いやつならさっさと逃げていただろう。しかし逃げないという事は納得していないのかもしれない。

もしかしたら中学生二人が暴力を使うかもしれないから、内海さん達は私達を庇っていてくれている。

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