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「お礼はクッキーだから早く食べて証拠隠滅しろって。個包装で十枚あるから小夜子ちゃんは五枚どうぞ」

「五枚って半分じゃない。そんなにもらえないよ」

「でも小夜子ちゃんは雑巾五枚も作ったし、僕とリーチ君は一枚だけだし、均等にするには不平等じゃない?」


一番多く作った人と少なく作った人が同じだけクッキーがもらえるというのはおかしい、というのがたすく君の言い分だ。

でも当時の私は手縫いにしようと自分から言い出したから頑張っただけだ。


「私が雑巾は手縫いじゃなきゃダメって言い出したんだよ。言い出しっぺだから誰よりも多く作ったってだけ」


リーチ君は市販の雑巾を自分のおこづかいで買おうと言ったけど、それに反対したのは私だ。

自分のミスを誰かが簡単そうに埋めたらよくないから、なんて言って。


「そうかもしれないけど、小夜子ちゃんが多く働いたのは本当の事でしょ?リーチ君だってそうするだろうし」

「……そうかな」

「そうだよ。そもそもリーチ君が市販の雑巾にしようって言い出したのは、小夜子ちゃんに負担がかかるからなんだよ」

「えっ」


たすく君は私の知らない話をした。

多分、これは私がいない時にリーチ君がたすく君に話した内容なのだろう。

記憶力のすごいたすく君は応用がきかないけど、その分語る記憶は信頼できる。彼がそういうのなら想像ではなく事実だ。


「ええと、小夜子ちゃんが雑巾の材料になるタオルを用意した時かな。『こんな計画したらあいつだけがんばりすぎるから市販がよかったのに』だってさ」

「そんな話を、リーチ君が?」

「うん。してた。内緒にしてって言われたんだけどね」

「じゃあ言っちゃダメじゃない」

「忘れちゃった、……なーんて。えへへ」


いたずらが成功したみたいに笑うたすく君にはまだ照れがあって可愛かった。

物事を忘れない彼が忘れる事なんてありえないからきっとわざとだけど、こんな風にバラされたのなら許してしまいそうだ。


「こういう事を言い出す役目ってリーチ君だけど、実際行動するのは僕らも一緒だから、手柄はちゃんと分けたいって思うんじゃないかな」

「なるほど……」


リーチ君が思いつく事といえば小学生のレベルを越えていて、それは彼にしかできない事と言っていい。

けど実際に行動するのは私達が多く、リーチ君は大変な事を押し付けてはいないか、自分だけがほめられていないか、と気にしている。


「……それなら言ってくれたらいいのに」

「言わないと思うよ。リーチ君ってかっこつけたがる方だし」


確かにかっこつけたがりだ。

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