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そんな私を察してせかすようにリーチ君は肘で私のわき腹をつつく。
「ほら、正直に言えよ。大丈夫、ほしか達がどうあれ俺らはお前の味方なんだからよ」
くすぐったいわき腹と力強い言葉の言葉のおかげで、私は自分の中の違和感について話す事にした。
私の感じた違和感。
二人から向けられたどこか疑いの含まれた友情。
他にもアリカちゃんやほしなちゃんの趣味までささいな事を話す。
するとリーチ君は少し考えこんでから口を開いた。
「……やっぱり、俺はこの件から手を引く事にする」
「えっ」
「あしなには弁償させる事にしよう。つうか、俺が間に入って霰のサインもらってきてやるから」
「ほしなちゃんね。って、どうして急に?」
リーチ君は手を引くと言ってもちゃんと面倒は見るつもりだ。
弁償は最終手段だし、家が芸能事務所のリーチ君なら霰のサインももらえる。そうしたらアリカちゃんは喜んで何もかも水に流してくれるかもしれない。
間違ってはいない解決方法だけど、急に写真集の行方を探さないなんて、その理由が気になった。
「どうしてって、別にいいだろ。俺の提案ならきっと二人も納得するんだから」
「でもほしなちゃんの借りパクの疑いは晴らさないと」
「それよりお前にはやる事があるだろ」
ずい、とリーチ君は私の目の前に携帯画面をつきつける。
時刻は五時前で仕事の時間が近い。そろそろ蘭子さんが迎えに来る時間だ。
「っ、でもっ、」
今すぐ学校を出なきゃいけない。でもリーチ君の言葉が気になってしまう。
「ほら、行けよ。大事な打ち合わせに遅刻していいのか?」
突き放すようなリーチ君の言葉。それに私はこれ以上聞いても無駄と、正門へ向かって走り出した。
■■■
大人びていて気遣いが半端ないリーチ君でも、私とはたまに対立する事がある。今回もそれだろうけど、私はどうしてかわからなくて悩みながら一晩を過ごした。
「小夜子ちゃん、お礼もらったよー」
翌日の朝、登校するなりたすく君は私にクッキーの箱を見せてくれた。仕事中も家事中も悩んでいた私には、たすく君の純粋な笑顔に癒されてしまう。
「お礼って?」
「ほら、前にぞうきん縫ったお礼。あのぞうきん、結局二年全体で使う事になって、『こんなくだんねー事するのはお前らだろ』って学年主任の先生がくれたんだ」
そうだ、ぞうきん。
前にぞうきんを縫う事になった時にも、ほんの少しだけど私とリーチ君で意見は対立した。
二年のとあるクラスで『ぞうきんを忘れた生徒はゼロ組行き』だなんて言う先生がいたから、誰かが忘れた時のために私達が雑巾を縫ったのだった。
『恐怖で人を支配するやり方が気に入らない』という理由だけでだ。だからわかる先生にはわかって、こうしてゼロ組にお礼が届いたのだろう。
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