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「そういや小夜子、日焼け止め塗った?」
「朝ちゃんと顔に塗ったよ」
「手足や首も塗っとけ。あと顔も念のため塗り直せ。四月の紫外線なめんなよ。いっそザクロからお面を借りてもいいくらいなんだからな」
リーチ君は女子への気遣いは半端ないけど、それゆえ美の忠告も半端ない。
私は体操服入れから日焼け止めを取り出した。自習だしまだ休み時間中なので時間はあるだろう。そして校舎の影で塗り始める
「今日は50メートルのタイム測るんだっけ?」
「あぁ。ただ、先生がいねーからな。普通に走るだけじゃつまらないし、ボールでも出すか」
「四人で球技?」
「キャッチボールならできるだろ。一組なんてしょっちゅうドッジボールとかやってるらしいし」
一組。私が五年生まで所属していたクラスだ。担任は体育が苦手な川崎先生のため、授業に手抜きが見られる。
だからボールを渡して終わりなドッジボールがやたら多いのだった。
「ドッジボール……私は苦手だった。男子とかすごいやる気で休み時間からやってるし」
「だよな。お前目立つし。ま、ゼロ組じゃできない球技だから良かったじゃねぇか」
その点はゼロ組のいいところでもあり、悪いところかもしれない。ゼロ組は四人しかいないから、人数が必要な事はできない。
ドッジボールで背が高い私は良い的だ。体が大きい分大人並みの力はあるけれど、すばやさに優れている訳ではない。長い手足で小さな皆と一緒にちまちま逃げ回るのは難しかった。
四人しかいないゼロ組ではそのドッジボールをしなくなったのはありがたい事だけど、たいていの球技は四人できないから少し物足りない気もする。
顔や手足などに日焼け止めを塗り込み終えた時、ようやくザクロ君とたすく君がやって来た。
ザクロ君は体操服姿に素顔。体育の時間はお面を外す事にしたらしい。
その手にはバドミントンのラケット。
「お、なんだ。バドミントンすんの?」
「うん。私物だけど志水先生がしてていいって」
「よしっ。じゃあ準備運動しよーぜ」
ザクロ君私物のバドミントンセット。多分こういう事態を予測して、ザクロ君がロッカーにでも入れてあったのだろう。リーチ君も四人でできる球技にわくわくしてる。
準備運動をしようとしたところで、私はグラウンドに面した渡り廊下のあたりが騒がしい事にきづいた。
そろそろチャイムも鳴る。皆急いで教室に戻る頃だというのに。
何かと思い近寄れば、見慣れた嫌な景色があった。
「返してよっ!図書室の本なんだよ!」
細い悲鳴のような声をあげる男子が一人。
「へいパース!」
「ほいパス!」
「もう屋根の上にシュートしちまおうぜー」
本をボールのようにとりあつかう男子が三人。
そして一人の男子が本を取ろうとするけれど、それは間に合わず次の人の手に渡ってしまう。
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