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「任せて下さい。先生権限で阿藤君の書類から弱みを探って握って潰してやります」
この先生本当に大丈夫かと思う発言だが、志水先生は美しくもしっかりとした足取りで職員室に向かった。その行動力はいっそ心強いと思う。
「俺らは手分けしてクラスメイトに話聞こうぜ。あ、念のため小夜子はザクロと行動してくれ。そいつと一緒なら大丈夫だろうから」
理一郎君に言われて私はザクロ君を見る。やはりキツネだししゃべることもない。
阿藤達に絡まれた時の護衛のつもりかもしれないけれど、お面以外は普通……むしろ小柄で細身な彼に護衛を任せるには違和感がある。
それでも一人でいるよりはいいし、気遣いは嬉しいけれど。
「よし、じゃあ昼飯時にまた集合。それまで解散!」
理一郎君の号令により私はザクロ君の元に向かった。ザクロ君はあっちと廊下を指差す。とりあえずここは彼に従おうと私はついて行った。
そろそろ普通のクラスも始業式後のあれこれを終わらせている頃。
しかし五・六年生には委員会があるし、四・五・六年生にはクラブ活動があるから生徒がまったくいないわけではない。
ザクロ君が向かったのはランチルーム。広々とした空間に大きなテーブルと椅子がたくさんある、お昼に皆がお弁当やパンを食べる場所だった。
当たり前だけど生徒はまだおらずわずかな職員のみだ。もう少ししたら学校に居残りした人がお弁当かパンを食べに来るかもしれないけれど。
「ここに何かあるの?」
私がそう聞くと、ザクロ君はランチルームのはしっこででパンを売っている購買のおばさんを指差した。
そしてスタスタとそちらへ向かって行く。
「あらザクロ君。今日は学校でお昼?大丈夫よぉ、パンは普段より少ないけど、ちゃんと売ってるからね。あ、その子の分も?わかったわ」
おばさんはまるでお面の奥の表情がわかるかのようにお話していた。
事前にチャージしておくここ限定のカードで支払いをして、デニッシュ二つと牛乳二つを買う。
そしてその半分を私に持たせた。
「食べよう」
「え、でも調べるんじゃ」
「泣いたらお腹がすく。泣いてなくてもお腹がすいたけど」
短く言って、本当にお腹がすいているからかザクロ君はさっさと席につく。
私の席もしっかり確保して指し示した。
ザクロ君にはハンカチを借りたばかりかおごられてしまったし、ものすごく気遣われている。
席について私は考える。ザクロ君、そのお面でどうやってパンを食べるのか。
疑問に思っているとザクロ君は普通に後頭部に手をやり、紐を解き、お面を外した。
「えー!?」
思わず大きな声を上げてしまい、だだっ広いランチルームに響いた。
不思議そうなザクロ君の顔はとても可愛らしいつくりだった。
肌が白くて目がぱっちりしてて、女の子みたいだ。
志水先生のストライクゾーンそう、というか、これでザクロ君が男の子だから対象外なのかもしれない。
「そんなに驚く顔?」
「驚くよ。こんなにかわいいもん」
自然と出てしまうかわいいという言葉は禁句なのか、ザクロ君はむっと頬を膨らませた。その仕草ですら可愛い。
「別に、すぐに大きくなる。小夜子だって追い抜く」
「……うん。そうだよね」
別に、私は小学生にしては大きいだけだ。大人の男の人なら私よりずっと大きい人も存在する。
きっとザクロ君達も中学生になれば私より大きくなるだろう。
私が気にしているのはあと三年ぐらいの問題…………と、思いたいけれど現実、私はこれからも伸びて身長180センチになるかもしれないし、現在の身長165センチに届かない男の人も結構いる。
おまけに三年我慢しろと言われても十二歳が感じる三年なんて人生の四分の一だ。思わず深くなるため息を、牛乳を飲んで誤魔化した。
「いい飲みっぷり」
「うん。色々やってられなくて。でもおいしいんだね、牛乳って。普段お弁当だからこんなにちゃんと飲んだの初めて」
「牛乳を、飲まない……?」
何故かザクロ君が衝撃を受けていたのが、仮面なしの状態ではよくわかった。目を見開いてわなわな震えている。
私の身長が牛乳で伸びたとでも思っているのだろう。
「えっと、背が高いからって牛乳をすごく飲む訳じゃないよ?」
「じゃあ何を食べるっていうの……?」
「なんでも、かな。ほとんど自分で作るから、好き嫌いあると面倒なだけだし」
私の長身は多分遺伝だろうけど、せめて身長を気にしているらしいザクロ君には前向きになれるようそう告げる。
「料理を、作る?」
何故かザクロ君はそっちに食いついた。大きな目をキラキラさせている。
「うち母子家庭だから、お母さんを手伝ううちにね」
「うちも母子家庭だけど、僕は料理できないよ」
そういうものかと私は密かに納得した。うちは母子家庭だからできて当然と思い込んでいたけど、これだけできる小学生はあまりいないようだ。
とはいえ、私だってカレーや炒めものが多いしお弁当には残り物を詰めるか冷凍食品なんだけど。
それでも初めておごってもらったパンはおいしかった。
せめて後片付けは私が、と言い出し、パンの包みなどをゴミ箱に捨てる。
その時を待ち構えていたかのように、私は小柄な影に囲まれた。
「ようデカ女。お前ゼロ組行きなんだってな」
相変わらずの低身長小太りの体は、私を睨み付けながら胸を張って立っていた。
例の阿藤が仲間四人を連れ、私を囲んでいる。
「いい加減その髪切れよ、みっともねーな。それともまた俺らに切って欲しいのか?」
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