そしてここで気付く。ゼロ組の生徒は校則違反はしているもののまともそうで、なおかつ私は彼らに歓迎されているという事に。

キツネお面の少年は手招きする。入り口に固まってないで教室に入れという意味だろう。


「おー、ザクロ。お前集会サボってんじゃねぇよ。俺だって嫌み言われてメンドーだけど集会に出てんだからな」

「そうだよ。ザクロ君も集会にはちゃんと参加しなきゃ」


猫目の子も背の高い子も集会の欠席は注意しても、キツネお面には注意しない。つまりキツネはいつもの事のようだ。


「そうだ、新入りの机出そうぜ」

「新入りさん、背が高いから席は後ろで、僕の隣でいいよね」

「おう、お前ら二人大きいからな。俺らの前じゃ黒板が見えねー」


さらりと私の身長が話題に出されるが、二人の言い方はあまり嫌なかんじはしなかった。

大きいから前の席じゃ困るというのは当たり前の事だし、同じくらいの身長の子もいるからだろう。

広い教室内は四セットの机と椅子が四角く並んだ。教室後部から見てその右下に私はランドセルを下ろす。


「じゃあ自己紹介しようぜ。俺は青柳理一郎。皆はリーチって呼んでる」


私が落ち着くと私の前の席にいる猫目、理一郎君がそう言った。

まとめ役らしい彼が言い出せば、この場は自己紹介の場になる。


「このクラスにはいじめられて来たんだ。よろしくな!」


とても明るく、まるで交通手段のように理一郎君は言った。

……いじめられた?

あり得ない。普通いじめられたら誰も信じられなくなって、こんな風に明るく喋れなくなると思うのに。

そして問題児ばかりのクラスと聞いていたけれど、よく考えれば私もここに来たんだからいじめられた側の子がいてもおかしくない。


次の自己紹介は私から見て左、背の高い男子がする事になる。


「僕は田中佑(たすく)。タスクでいいよ」


品行方正な雰囲気があり背が高い少年がタスク君。と私は記憶する。

優しそうな子だから、きっと彼もいじめられる側だったのだろう。


「ちなみに僕はいじめっこを告発したからこのクラスに来たんだよねー」


穏やかに言ったタスク君の言葉の意味はよくわからなかった。

コクハツ……つまりは告げ口ってこと?

なんでそんな人が問題児扱いされるのか。


意味はわからないまま次は左前の席、お面の彼が自己紹介をする。


「石川石榴(ざくろ)。ザクロでいい」


お面越しに聞こえるくぐもった声は高くすきとおっていた。顔は隠しているが、普通に喋れるようだ。

きっと彼はいじめられた側で、人を信じられなくなってお面を着けないと人と会えなくなったのだろう。そんな予想をしながら次の言葉を待つ。


「このクラスに来た理由は、お面をしてるから」


ザクロ君はそれだけをぽつりと言った。

いやいやそのお面をしている理由は?と疑問に思うが、今語るべきなのはゼロ組に来た理由だ。お面は明らかに校則違反だからゼロ組行きの理由としては当然だけど。

そして次は私の番となる。


「小松小夜子(こまつさよこ)。小さい松に小さい夜の子」


自虐じみた自己紹介だが誰もつっこむ人はいなかった。

代わりに理一郎君が私の髪を見て言う。


「じゃあ小夜子な。しかし小夜子はかっこいい頭してんなぁ。どこの美容師が切ったんだ?」

「……阿藤が、男子達に命令して」


現在長い左側をみつあみに、短い右側はそのままにした頭の話題に、ようやく彼らは触れた。

そしてその髪の理由からゼロ組に来た理由を察したようだ。皆はすぐに納得した。


「アクトウの阿藤か。あいつ相当ないじめっこなんだよ。俺も小四の時いじめられたことあるぜ」

「彼、三年生の二学期に転校して来たんだよ。以来ずっとあんなかんじみたい」

「まぁ、うちは金さえ出せば入れる私立だからな。公立で問題起こして通えなくなったからうちに来たって奴も多いんだ」


理一郎君とたすく君がそんな風に説明して、ザクロ君はうんうん頷いた。

なるほどこの学校が歪んでるのはそういう事情だったのか。しかし男子達は自分達の置かれた状況をよく理解しすぎている。

私の知る男子達とまるで違って、大人びている。


「小夜子、このクラスに来たからには一つ良いことを教えてやる」

「良いこと?」


私は期待して耳を傾ける。こんなにも利発そうな理一郎君の言葉だ。きっと誰もが前向きになれる言葉に違いない。


「ゼロ組は、クラス・ゼロと言った方がカッコいい……!」


私は前言撤回してひたすらに呆れた。

やはり彼もバカな小学生男子の一人だ。





■■■





ゼロ組にやって来て一時間。私達は好きな食べ物など普通のことを質問しあった。

そして普通のクラスなら委員決めをするような時間に、ようやく私は疑問を理一郎君にぶつけた。


「そういえばこのクラス、先生はいないの?」

「担任か?志水先生ならいるけど、あんま来ねーからな」


志水先生。そう聞いてぼんやり思い出したのは綺麗な女の人だった。

去年からうちの学校で働いていて、その美しさから集会の挨拶時にには生徒皆がその先生に見とれていた事を覚えてる。


「志水先生は若くて美人だろ。だから川崎先生にやっかまれてゼロ組の担任を押し付けられたらしいんだよな」


あのヒステリーな先生ならあり得そうだと私は何も言えなかった






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