僕の幼なじみ

原ねずみ

僕の幼なじみ

 僕の幼なじみはあまり美人じゃない。


 かといって不細工でもない。まあ普通というところ。僕も他人の容姿をあれこれ言える立場じゃないけど。


 幼なじみは女の子で、眼鏡をかけて長い髪を結んでいる。そして彼女はとっても頭がいい。僕は彼女に勉強を教わりに行く。僕が彼女に優ってるところってあるのかな。あまりないかも。でも僕は、彼女の秘密を知っている。


 彼女は作家を目指してるんだ。


 まだ中学生だけど、難しい本をたくさん読んでる。ある時僕は、彼女の書いた小説を読ませてもらった。批評が欲しいって。読んでみてびっくりした。だって、いつもの彼女っぽくないから。強くて勇敢なヒーローが出てきて、可憐なヒロインを助けるんだ。人間って、よくわからないものだね。


 僕はとりあえず、面白いって言った。彼女は――あんまりはしゃぐタイプじゃないんだけど――照れくさそうに顔を綻ばせて、それを新人賞に応募したんだ。ちなみにこれは僕と彼女だけの秘密。作家志望だってこと、彼女は僕以外には言ってないみたい。まあわからなくもない。僕も実は裁判官になりたいんだけど、それは黙ってる。だって、そこまで頭がいいわけじゃないからね。


 新人賞の結果は――見事に落選。それを僕は雑誌で見たんだ。で、その日、僕は母に、彼女の家に庭で出来たスイカを持っていくように言われた。重いスイカを――一玉丸々だよ!――持って僕は彼女のうちに行った。彼女はちょっぴりむっつりした顔で出迎えてくれた。結果のことは知っていたみたい。


 スイカを二人で食べたんだ。もちろん一玉全部ではないよ。水っぽくてあんまり甘くなかった。二人でもそもそと食べたよ。新人賞の話はしていいものかどうか迷った。僕は器用に女の子を慰められるタイプじゃないしね。スイカは彼女のお母さんが切ってくれて二人で居間で食べたんだ。でもその後、二人で彼女の部屋に行って、そこで彼女が大反省会を始めた。


 彼女って頭がいいんだ。だから反省も論理的なものだよ。自分の原稿を引っ張り出して、あれが良くないとかここが悪かったとか――。もっと研究が必要って、とっても真面目な顔して言ったんだ。


 僕は気になってたことが一つあって、彼女に聞いてみた。それは作中のヒーローにモデルはいるのか、ってこと。彼女の理想の異性像なのかな。そしたら彼女はにこりともせず答えたね。


「あれは私」眼鏡の向こうの目が光る。「私自身なの。――まああそこまで何でもできるわけじゃないけど、でも、ああいうタイプが私の目標なの」


 僕は驚いてしまったね。


 僕の幼なじみはあんまり美人じゃない。でも――チャーミングなんじゃないかな、って時折思うんだ。

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