2ページ

「今練習しているのがサインの書かれたコインをまず曲げて、それを栓のした瓶の中に入れてまた出すってマジックなんですけど」

「それって曲げる必要あるの?」

「え、曲げた方が凄くないですか?」

 なんて真剣な顔で言ってくる。確かに固いコインが曲がったら凄いけどさ。なんか盛り込み過ぎな感じ。

「栓のした瓶に入れるって、側面のガラスの部分を通してって事だろ? それだけでも凄くない?」

 だってガラスをコインが通るんだよ? 意味分からなくない? なんで通るんだよ。

「確かにそうなんですけど。それをマザーに見せてもらった時本当に感動して。鳥肌が凄かったんですよね。こりゃ物質を変化させる魔法を使うしかないって」

 ・・・そう言えばピクシーは漫画ヲタクだった気がする。錬金術は対価もなしに出来ないんだよ?

「そうだけど、でもマザーはマジックでそれをするんですよ。それって本当に凄いし、自分でもしたくなるじゃないですか」

「それは分かる」

「分かるんですかっ」

 当たり前だろ。誰だって自分が出来ないようなことをされたらそれに挑戦したくなるに決まっている。特に自分のしている分野だったら。

「俺だって光るカクテルを発表されたらやってみたいもん」

「ブラックライトを使えば簡単に出来ますよ?」

「そう言うんじゃなくて、カクテル自体が発光するやつ。まだそういうのはないんだけどさ」

 天の川をカクテルにしたみたいな、そういうの。

「へぇ、もしそう言うのが出来たら飲ませてくださいね」

「出来たらね。それより今練習中のマジックを今度みせてよ」

「え~、下手だって笑うでしょ?」

「笑わねぇよ、失礼だな」

 笑ったりするもんか。頑張る姿を笑うなんてこの世で一番のナンセンスだもの。

「頑張れよ」

「兄さんもね」

 生意気っ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る