1-11 スクワット
「ふっ、ふっ、ふっ……」
息を弾ませながらパワーが身体を上下させる。
俺は隣でそれを横目に見ている。
今パワーはスクワットをしている。
スクール水着によく似たスーツを纏ってだ。
俺もスクワットの最中だ。
上下に動く度に揺れる巨乳を横目で見ている。
上がった時に跳ね上がり、下がった時に沈み込む。
何と美しい運動か。あれにはある種の感動すら覚えてしまう。
「後五十回。ギルティ、遅れてるぞ!」
アシュリー異端審問官が手の中で鞭を弾かせる。
「はぁ……はぁ……」
ギルティは既に息が上がっている。
体操服とブルマによく似た服を着て、動きやすそうではあるが、元々体力の無い小柄な子だから無理があるのは当然だろう。
「はぁ……はぁ……」
息が上がっている。その口元にフォーカスが当たる。
その……息遣いというのは結構エロいものだったのだと気付いてしまった。
あのギルティが、息遣いだけでこうも変わるとは……女の子ってよく分からない生き物だ。
「何で、私まで」
文句を垂れながらスクワットをするピアスはミニスカートをふわふわ浮かせて、太ももを露わにしている。
チアリーダーのユニフォームによく似た服を着せられているが、すらりと伸びた手足を強調するのに最適だと個人的に思う。
「余裕だな、ピアス嬢。後百回追加だ!」
アシュリーが嬉しそうに命じる。
「くっ……! こんな事で負けるものか!」
ピアスは俄然やる気を出して、スクワットに励む。
スカートがより強く浮いては沈み、俺はじっと見つめたまま、人目を気にする事も無かった。
「たるんどる!」
パシーン! と俺は鞭で打たれた。
「ああっ……!」
一瞬がくりと膝が折れて、俺はゆっくりと上下運動を再開する。
正直ちょっと気持ち良かった。
快感が後を引いて、尻から背筋までまだゾクゾクしている。
城下で騒ぎを起こした後四人全員連行されて、スクワット三百回という罰を命じられた。
これはアシュリーが法務官に掛け合ってくれたからで、三人がこの衣装なのも罰の一環であるらしい。
何故法務官がこのような衣装を所持していたか理由は分からない。
目の前でじっと観察しているあの男だ。
壮年の紳士だが、小太りでやや薄毛、七三で分けた髪がべっとりと頭皮に張り付いている。
鼻の下に生やしたちょび髭は綺麗に整えられて、左右で形がまったく同じに見える。
「はひっ、はひっ!」
法務官が上半身を揺らしながら腕を上下させている。
興奮しているのか?
もしかして、でもなくて、変態だ、あの人。
ちょっと笑ってしまった。こっちの世界でも人間って生き物は基本的に変わらないらしい。
「そこの少年、追加で五百回ね」
「なっ!」
法務官に言われて、俺は唖然とした。
「いーま、何か馬鹿にしよったでしょう? しよったでしょう?」
粘りつくような声で指摘されて、俺はちっと舌打ちをした。
「私を甘く見るなよ、小僧」
はっはっはっ、と法務官が笑う。
「くっ!」
このクソ親父!
むっとして、スクワットに励む。
ああ……こんなに運動したの中学以来だな。
こっちに来て、この短期間でこんなにアホみたいに充実するなんて思ってもみなかったさ。
まったく、異世界転生様様だぜ!
馬鹿野郎!
脳内であの糞ビッチのJK女神を口汚く罵る。
「む。今シャル・シュ様への悪意を感じた気がする」
すっとアシュリーがこちらを睨む。
俺は慌てて顔を背けて、緊張で表情を強張らせる。
「レッカ、追加で五百回だ」
わっはっは~い! アシュリー異端審問官からご褒美貰っちゃった~。
クッソッ! クソッ! クソッ!
俺は怒りの中でひたすらスクワットをこなす。
「もう駄目……です」
ギルティがダウンした。
床に伏せて、はぁはぁ息を切らしながら背を揺らしている。
うおぉぉ……!
その、寝姿がエロい。撮影しておきたい程にエロい。
「どれ、私が介抱してやろう」
法務官がのっしのっしとギルティに近づく。
スケベ親父め。何をするか大体想像つくぞ!
俺は間に入って、両手を広げた。
「何だ?」
法務官は俺を睨んで、不機嫌そうに眉をひそめる。
「彼女なんで、俺が介抱します」
「何?」
法務官は解せないといった面持ちでアシュリーの方を向く。
「確かに、彼から預かっている書類に恋人契約の項目はあります。ロマンス牢獄にて特例が働いたようです」
アシュリーが説明してくれた。
「国王の出したあれか!」
ちっ、と法務官は舌打ちをして、引き返す間際俺を睨んで言った。
「鶏ガラのようなガキと契約とは不幸よのぉ」
奴の顔が邪悪に歪む。
でも、お生憎、ネット界隈ではお前みたいなのは腐る程いるんだわ。
「そうでもないさ」
ふっと余裕で笑ってやった。
「くっ!」
法務官は拳を握って、忌々し気に恨み言を言った。
「後で吠え面かくなよ、小僧」
俺は言い返さず、笑みだけを返す。
「レッカ、ギルティを連れて、医務室に行って良い。そこを出て、右の三番目のドアだ」
アシュリーに言われて、俺は、やった、とほくそ笑んだ。
「すぐに戻って来いよ」
「終わる前に戻って来なかったら許しませんからね」
パワーとピアスに言われるが、あの人外二人と違って、こっちは生身の人間だ。 無茶を言うものではない。
俺はサボタージュする気満々でギルティを背負った。
よっと太ももを持ち上げて、細いながら柔らかい感触にややどぎまぎしてしまう。
それに、背に当たる感触が妙だ。
てっきり真っ平かと思っていたのに、意外と、こう、あるものなのだな、と。
後、自分と違う汗の匂いを感じるとちょっと興奮する。
でも、そんな気持ちを悟られないように俺は行くんだ。お先にエスケープ。これで終わりだ、すっとこどっこい。
パタンとドアを閉めて、俺はそっと言った。
「もう芝居はいいだろ?」
「……何だ、気づいてたんですか?」
むくりとギルティが起き上がった。
「うん。だって、お前があんなにエロい姿を晒すなんてあり得ないし」
あははっ、と笑ったら、ぽかん、と後頭部を殴られた。
「何すんだ!?」
「別に! さっさと医務室に行って下さい、バッカさん」
「レッカだ! まったく」
俺は呆れて苦笑しつつ、廊下を歩く。
ゆっくり医務室で休もうっと。
後でパワーとピアスに何をされるか分からないが、そんな事は知った事ではなかった。
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