1-5 集いし仲間
「あれ? 一人増えてますか?」
戻ってきたパワーが指を折って数えている。
増えてますよ、一人ね。
「私はピアス。故あってパーティに加入させて頂きました」
「あ、パワーです。天使やってます」
パワーは自然と頭を下げて恐縮している。
ピアスは冷然としつつも微笑を絶やさない。
うーむ、ヒエラルキーではピアスが上だ。
「それにしても変わったものを持ってらっしゃいますね? 棺桶ですか、それ?」
パワーがピアスの後ろに置かれたものを指差す。
「おっしゃる通り棺桶です。もっとも古代文明の遺物を組み込んでいるうちに原形を失ってしまいましたが」
そう言われた通りその棺桶は大きな砲身を伸ばしていたり、ジェネレーターのようなものを内蔵していたり、日本のアニメに出てくるとんでも武器に見えた。
「実はこれが理由で家を出奔致しまして、吸血鬼に与えられるのは不死とただ一つの棺桶のみ、という矜持を私が守らなかった所為です。恥ずかしながら変わり者なのですよ」
「吸血鬼って、ならば不浄の者か?」
突然パワーが剣呑な雰囲気になる。
あ、まずい。
「まあまあ! お互い事情があるわけだし、ここは一旦終わりにして、先に保護観察官の所に行ってもいいですかね?」
俺は二人の間に入って、引きつった笑顔で仲を取り持つ。
「保護観察官? 何かやったのですか?」
ピアスが俺を刺すような目で見る。
「あ、いや、実はギルティとロマンス牢獄に入れられてて、恋人の契約を結ぶ事で出てきたんですけど、ここで、その、社会復帰の道を歩ませて頂く事になりまして」
「国王の出した特例……驚きました。レッカさんはともかくギルティさんまでもとは」
非難を帯びた視線でギルティを見るピアス。
ギルティはうつむいて、何も言い返さない。
「どうりでおかしかったわけです。こんな年端もいかない小さな子と成人男子の組み合わせでは勘違いしても仕方がない」
「あ、俺、十六です」
高校二年だった。
「は? 十五で成人でしょうが? 何を言っているんです?」
「え? 十五? ああ、ここじゃそうなんだ」
「ここ? 失礼ですが、前は何処に?」
「実は地球からメラリオに転生してきた転生者で」
「ほう。ちなみにどの女神の導きで?」
「シャル・シュって奴だったかな? 単位を落としそうだから補修で転生の業務をやっていたみたいだけど」
「女神候補生か……その名に聞き覚えはあります。そうなると私は貴方に手を貸さなければなりませんね」
「え? 何で?」
「女神は我ら吸血鬼にとっても信仰の対象なのです。旧き神々は我等を滅ぼすために刺客を差し向けましたが、女神の一派は異を唱え、融和の道を民衆に示した。でなければ、こうして人の往来を歩く事すら危うい」
「そういえば、真昼間なのに出歩いて大丈夫なんですか? 吸血鬼なのに?」
「私は、デイウォーカーです。昼夜を問わず行動が可能なのですよ」
「じゃあ、エリートなんだ」
「ま、まあ、そういう見られ方は少なからずあります」
何処か恥ずかし気に顔を背けるピアス。
「あの、」
不意にパワーが話に割って入ってきた。
「女神の一派が異を唱えたって話は本当なんですか?」
「え? 貴女、天使でしょう? 何故天界の事情を知らないのです?」
「えーと……実はここ何百年か天界に戻っていなくて……。翼を片方失ったから、なんですが」
と、無残な肩甲骨の傷跡を見せるパワー。
ピアスは額に手を当てて、憐れむようにため息をついた。
「前途多難ですね。これはますます放っておけない」
ピアスはチェーンを肩に掛けて、棺桶を背負った。
「保護観察官の名は?」
「えーと」
俺は書類を確かめて、名を読み上げた。
「クリンズ・バーンシュタイン」
「クリンズ? ビッグシールド・クリンズか」
どうやら、ピアスには心当たりがあるようだった。
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