第10話『あなたが一緒に居てくれるなら』
肝試しの開始が宣言されると、その場に集まっていたメンバーがくじ引きで分けられることになりました。
……とは言っても、どうやら細工をしているらしく、恋人たちは別れることなく、無事私と魚川くんもペアになる事が出来たのです。
「あ……真倉さん! よろしくね!」
にこやかに笑いかけてくる魚川君へ対して、私は「あ、えっとその、よろしく」と何とも微妙な返事しか出来ない自分が悔しいです。
そうしている内に、肝試しの順番も決められたようで私たちは大人しく順番を待つことにしました。
順番待ちの間、魚川くんは友人の小川くんと大久保くんと会話をしています。
「ぷっぷー、なんだお前ら。二人で組んでんの?」
どうやら小川くんと大久保くんは男子同士で組んでいるらしく、それを魚川君がからかっているようでした。
男の子同士のこういうノリって入っていいのか微妙に分からなくて、一緒にいるのについ身体が固まってしまいます。
「なんだよ! 俺たちだってどうせなら女の子と組みたかったよ!」
小川くんが必死に反論してきます。大久保くんは素知らぬ顔で平気そうです。
「いいなぁ! 歩は女の子と組めてさぁ」
そうやってぼやいている、小川くんの言葉に魚川くんは一瞬私の事を見て
「へへん、いいだろー」
と嬉しそうに笑いました。
別に、女の子ならだれでもいいのではないか、と一瞬可愛くない事を思ってしまいましたが、魚川くんの可愛らしい笑顔に、つい私は言葉を失ってしまいます。
「あ……ごめ、真倉さん嫌だった?」
そんな私の様子に気付いた魚川くんがそう言ってくれます。
私は慌てて「そんな事ないです!」と手を振った。
「私も魚川くんと組めて嬉しいです!」
勢いに任せる形でそう言ってしまった後で、恥ずかしくなって「えっと、えっと……」と何か言ってごまかそうとしますが、中々上手く言葉が出てきません。
チラリと魚川くんの表情を盗み見ると、彼も少し恥ずかしそうな顔をしていました。
そんな様子を、小川くんと大久保くんはジッと見つめていましたが、大久保くんが「あ」と声を上げ校舎の方を指さしました。
「歩たちの番っぽいよ」
見ると確かに、青海先輩たちが私たちに手を振っています。
「あ、本当だ。……いこう、真倉さん」
そう言って先を歩く魚川くんへ、私は急いでついていきました。
***
青海先輩たちが考えた肝試しは至ってシンプルだ。
学校の7不思議にまつわる場所を回り、最後に音楽室に置いてあるリボンを持ってくると言うもの。
説明を聞いている内は簡単そうだ、と思ったがいざ先輩たちから懐中電灯を受け取って校舎に入ると、夜の校舎の雰囲気に少し気圧されてしまう。
校舎に一歩足を踏み入れると、そこは一気に別世界のような暗さが広がっていた。
「真倉さん、大丈夫?」
心配をしてくれたのか、こちらを気にかけてくれる魚川くんでしたが……私なんかより彼の方がずっと怖がっているようでした。
顔面蒼白とはまさにこのこと。
彼の方が幽霊に見える程、顔が真っ青です。
「大丈夫ですよ。魚川くんは?」
「お、俺!? だ、大丈夫っすよ!」
慌ててそう言って見せる魚川くんだが、やはりちょっと怖がっているようです。
でも、そんな状態で私の事を気にかけてくれる優しさが、私にはやはり嬉しく感じました。
「魚川くんはやっぱり優しいですね」
なんとなく、そんな事を言うと彼は「え!? そうっすか?」と驚いた顔をします。
「そうっすよ」
慌てた時の彼の言葉を真似しながら、私はそう言います。
そんな私の様子に安堵したようで、彼はゆっくりといつもの調子を取り戻してきます。
「そう言えば、真倉さんは体調大丈夫なの?」
真っ先に私の体調の心配をしてくれるのは、魚川くんの優しいところです。
「はい、最近はとても調子がいいです」
「そうなんだ、よかった~」
彼はホッと胸を撫でおろした後、ふざけた様子で言いました。
「俺、夏休みは行ってすぐ風邪ひいちゃってさ~。真倉さん夏風邪はバカしかひかないんだって。知ってた?」
「それは迷信ですよ。でも、夏風邪心配ですね、大丈夫ですか?」
私が尋ねると彼はふふん、と胸を張って笑って見せます。
「二日で治したよ」
「それはすごい!」
身体が健康な証ですね。なんて言ったら、また気を遣われてしまうかな、と思ってなんて続けようか迷う。
そうしている内に、また魚川くんが話しかけてくれました。
「夏休み前は真倉さん教室でよく見てたけど、授業とか分からない所ない?」
「えぇ、ありがとうございます。今の所大丈夫そうです!」
授業は確かに難しく感じる時もあった。
でも今回のように夏休み前に時々魚川くんが、私に気を遣って勉強の事を聞いてくれて、教えてくれるからなんとかついていけている。
「いつも気を遣ってくれてありがとうございます」
だから、今がチャンスだと彼にお礼を伝えることにした。
「そんな、俺なんか何も出来てないよ」
「いえ、魚川くんには私はいつも助けられてます」
謙遜する彼に、私は向き直る。
「いつも、保健室にいる私に会いに来てくれて……それにとても救われています」
彼は目を見開くと恥ずかしそうに鼻の頭を擦ります。
「いやいや、そんな……」
照れたような彼の姿がどこか可愛らしいです。
そうしていると、窓が風で強く揺れました。
「ひっ」
それに隣にいた魚川くんが大きく声を上げます。
上げた後で、こちらをチラリと見て「あはは……怖いよね」と笑いました。
「真倉さんは怖くないの?」
まだ窓の外をじっと見つめながら、魚川君は私に尋ねてきます。
「怖いですよ、でも魚川くんがいるから」
私がそう言うと、彼は「俺?」と不思議そうな顔をします。
「はい。魚川くんと一緒なら大丈夫な気がします」
「え、俺ビビりだよ?」
確かに最初は身体を震わせながら校舎に入った彼だったが、それでも魚川君は一生懸命私を楽しませようとしてくれました。
「でも、一緒に居てくれるから、大丈夫です」
私がそう言うと彼は「そっかぁ」と恥ずかしそうに笑いました。
再び私たちが歩き出そうとした次の瞬間、視界の端に白い布が見えました。
そして――
――うらめしやぁ
何とも形容しがたい、けれど何て言っているのかは分かってしまう。
そんな声がして、驚きました。
けれど、私以上に驚いた人がいたようで。
「で、でたーーーーーっ」
魚川くんが大きな声を上げ、その場から走り去っていってしまいました。
「あらら、効果抜群だったかぁ」
布切れの下から、桜野先輩が顔を出して走り去っていった魚川くんを見送っています。
「ま、ひとまず作戦成功だね!」
言って私に、ぐーっと親指を立てて見せて、ストラップが沢山ついたスマホを手にメッセージを打っているようでした。
「りょーくん、こちらオッケー。あとは任せた!」
どうやら青海先輩に連絡を取っているようです。
魚川くんは大丈夫でしょうか。
勢いよく走って行ったから、ケガしないかだけが気になります。
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