第6話『凸凹ツートップ』

 依頼人のためにする事が決まり、学校のお偉いさんの許可も得たし、という訳で俺たちは早速動き出すことにした。まぁやる事ったって、肝試し、なんだけどな。

 霧島父、もとい教頭は付き添いをしてくれる教員を見つければよい、と言っていたが当てがあるはずもなく。

 ひとまず、こう言ったイベント事の開催に厳しいであろう、我が高校の生徒達を代表する集団に会いに行くことを俺達は決めたのだった。

 校舎の中でも生徒の人通りの多い、俺達の活動場所である空き教室とは180度雰囲気の違う場所に、その部屋はあった。

 教室の扉上部には、職員室なんかと同じように『生徒会室』と書かれた小さな看板がついており、そこが学校からも認められた場所であることが分かる。


 重苦しく閉まっている扉の前で、俺は隣に立つ霧島に視線をやるが、奴は「早くしてくださいよ」と言わんばかりの視線を返すばかりだ。

 なぜこいつと二人かと言うと、桃香と紅は「部活があるんだ」と居なくなってしまったからだ。

 夏休みなのに、忙しい奴らだ。

 夏休み、と言えば今生徒会はやっているんだろうか。当たり前のようにやっていると思っていたが、その確証はない。

 ひとまずダメ元で、という事で扉をノックしてみる。


 コンコン。

 と、響いたノック音にすぐさま返事は返ってきた。


「はい、どうぞ」


 男の声だ。大人と言うよりは同い年くらいの男子の声だったので、ホッとした俺は扉を開ける。


「失礼します」


 扉を開けるとそこには、二人の学生がいた。

 一人は先ほどの声の主だろう、男子生徒。

 しかし、彼は非常に目を引いた。何故なら、その身長はかなり高く、高校生とは思えないほどの長身だったからだ。

 180㎝はゆうに越えているのではなかろうか。

 資料の整理をしていたようで、戸棚の前に立ってこちらを見ている男子生徒は眼鏡の奥からこちらをじっと見つめている。


「何の御用ですか?」


 問いかけられ、俺が口を開こうとするとそれを遮るもう一つの声があった。


「おぉ、君は『くっつけ屋』の部長くんじゃないか」


 そう、部屋の中心にある生徒が座るにはいささか立派すぎる机に座っていた女子生徒が俺に声を掛けてきた。


「生徒会長」


 俺がそう言うと、生徒会長はやや視線を鋭くしてこちらを眺める。

 椅子に腰かけていると分かりづらいが、彼女の身長はかなり低い。噂によると150㎝に届かないくらいらしい。

 しかし、そんな体格に関係なく放たれるプレッシャーは相当なものだ。

 さすが、この曲者揃いの高校を治める生徒会長、と言った感じだ。

 その有能さは歴代の中でも伝説クラスらしい。

 隣に立つ長身の副生徒会長とセットで、秀桐しゅうとう高校の凸凹ツートップと呼ばれている。


「部室の使用許可を頂いたと聞きました、ありがとうございます」


 まずは教室を使わせてもらえた事に感謝の言葉を伝える。


「きちんと手続きをしてくれるなら、私たちは応えるんだよ。まぁ、桜野に感謝するんだな」


 表情を変えることなく、当たり前のようにそう返す。


「で、本題は? ここに来たのはお礼を言うためじゃないんだろう?」


 どうやらこの敏腕生徒会長には全てお見通しらしい。

 意を決して、俺は口を開く。


「活動の一環で、夏休み中どこかの日程で夜に校舎を使わせてほしくて」


 生徒会長の眉がぴくりと動く。


「目的は?」


 想定していた質問ではあるが、一瞬言葉に詰まる。


「肝試し、です」


 すると生徒会長は眉をしかめた。


「肝試し? そんな理由で夜の校舎を使用できると思ったのか?」


 まぁ、それもそうだよな。

 けれどここで引き下がるわけにもいかない。

 真倉さんの恋路がかかっているのだ。


「身体が弱くて、中々学校に来れない生徒さんの願いなんだ。頼む」


 言って俺は頭を下げる。


「そうなのだな」


 それに、正面の生徒会長はやや興味深そうに唸った。


「しかし――」


 だが、横から副生徒会長が反論をしようとしている気配を頭上で感じた。

 やはりダメなんだろうか……と思った瞬間、隣に誰かが立つ気配があった。


「話に割って入ってしまい、申し訳ありませんが」


 その声はいつも聞いている凍るような、凛とした声。

 霧島吹雪だ。

 思いもよらぬ人物の助太刀に、俺は慌てて顔をあげる。


「病弱で学校に馴染めずにいる生徒が、友人と仲を深めるための課外活動、という事ならどうでしょうか?」


 いつも以上に冷たくも感じる冷静な話し方が、これほどまでに頼もしく感じたことは無かっただろう。

 霧島の提案に、副生徒会長は「うむ……」と気圧された様子だ。


「交流を深めるレクリエーションなので、様々な生徒に声を掛ける予定でいますが、いかがでしょうか」


 追い打ちをかけるように重ねられた言葉に、副生徒会長も眼鏡を指でかけなおす。


「そういう事なら、まぁ」


 頷き、生徒会長に頷いて見せる。

 それを受け、生徒会長も「うむ」と大きく頷いた。


「では、君たちの活動を許可しよう。……ただし、条件がある」

「条件?」


 どんな内容だろう、と身構える。


「その活動に私たち二人と、生徒会顧問の先生を同席させて欲しい」


 思ったよりも寛容な条件にホッとする。


「そういう事なら大歓迎だ。人は多い方がいい」


 俺は肩を撫で下ろし、生徒会長と副生徒会長の二人に頭を下げた。


「ありがとうございました」


 それに生徒会長は手を軽く上げて応えた。


「いいのだよ。生徒会顧問の若林先生だが、どうやら君たちくっつけ屋の顧問を立候補してくださっていたようだぞ」


 しかも思いもよらない、イイ話付き。


「若林先生は本日出張なので、当日に挨拶してみるといい」


 そして生徒会長は「それでいいかな?」と俺達に声を掛けてくる。


「「ありがとうございました」」


 俺と霧島は二人に頭を下げると、ゆっくりと生徒会室を出た。

 扉を閉めた俺と霧島は、同時に歩き出す。

 その歩みは力強く、一刻も早く真倉さんの助けになりたいと急いていた。

 霧島の表情や気持ちは読み取れないが、きっと奴も同じ気持ちなのだろう。

 じゃなければ、あんな助け舟を出してくれたりしない。


「ありがとな」

「何のことでしょう」


 お礼を伝えても、冷たくあしらわれてしまう。

 しかし、今日の俺は引き下がらなかった。


「フォローしてくれてさ」


 言うと、霧島は僅かに歩みを緩めて、窓の外に視線を向けると。


「別に」


 とだけ返した。

 本当に、可愛くないやつ。

 だけどこれ程心強い味方も居ないと、俺は思った。

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