第4話『作戦はズバリ、肝試し』

 話を最後まで聞いた俺たちは、真倉さんの手伝いをすることに決めた。

 断る理由もなかったし、何より彼女の恋を応援したいと思えたからだ。


 そのムードメーカーな彼、魚川くんの気持ちは読めないが、彼をひたむきに想う真倉さんはとても真剣そうな眼差しだった。

 そんな彼女を応援せずにいられるだろうか。

 いや、しない理由なんてない。


 そんなわけで早速、真倉さんの後押しをするための作戦会議をすることになった。


「しかし、うーん……」


 なった訳だが、こうしていざ作戦会議となると……どういう方向性でアプローチをかけるべきか、毎回悩んでしまう。


「どうしたもんかなぁ」


 顎に手を当てたまま、うーん……と唸る。

 作戦の片鱗すら浮かばない俺を見て、窓際の柊が盛大に溜息を吐いた。


「はぁー……。青海あおみクンは、ほんまに抜けてるとこあるなぁ。何か案があるんやと思っとたわ」


 やれやれ、と言った様子でずっと体重をかけていた壁から、その重い腰を浮かしてこちらに歩いてくる。


「うちが思いついたんはなぁ……ズバリ肝試しや!」


 ずい、と机から身を乗り出して俺たちにそう告げる柊。


「肝試しぃ?」


 柊の提案を繰り返す。

 肝試しと言うと、心霊スポットなどに行って怖い思いをする、アレだ。

 だがしかし、うむ。

 吊り橋効果というのもあるくらいだし、それは二人の仲を深めるにはかなりいい案かもしれない。


「それいいな、採用」

「せやろ?」


 二つ返事で了承の旨を伝えると、柊はドヤ顔を浮かべる。

 方向性が決まれば、あとはそれを詰めていくだけでいい。


「じゃあ、肝試しをする方向で行くとして、どこでやるかだな」


 この辺りには、これと言った心霊スポットがあるわけでもない。

 まぁ、仮にあった所で、そこに恋愛成就のためにわざわざ行って肝試しをしよう、なんて言うのも変な話だ。

 これは別に俺が怖いから、とかそういう訳じゃ断じて無いぞ。

 そもそも理由不明の恐怖体験より、俺達人間が仕掛けた恐怖体験の方が都合よく二人の仲を縮められると思うし。

 ホラー作品が苦手とか、そういう事とは全く関係のない話だ。


「場所については問題ないやろ。学校なんて最高の肝試しスポットやないけ」


 あっけらかんと、言ってのける柊。

 学校で肝試し、それは盲点だった。


「確かにそれはいいかもな」


 数度頷く。


「真倉さんは、どう思う? そういう方向性でいいか?」


 ずっと話を聞いていた彼女の方を向き、確認する。

 真倉さんは俺の目を見つめた後、こくんと軽く頷いた。


「大丈夫です、ありがとうございます」


 依頼者の同意も得たことで、いよいよ舵をとれるようになった。

 そうと決まれば、後は動き出すだけだ。


「肝試しはいいけど……真倉さんの好きな彼を誘うなら、イベントにしなきゃ怪しまれるんじゃない?」


 そこまで話を聞いていた、霧島が横から口を挟む。

 奴の意見は確かに的を射ている。


「じゃあ、色んな子を誘ってみよっか~」


 同じような事を思ったのか、桃香もそう提案してくる。

 紅も隣で「僕も手伝うよー」と言っていたので、その辺りは人脈の多い二人に任せていればいいだろう。


 実際、どういう風に参加者を怖がらせるかなどは後々決めることにしよう。

 目下の目標としては、ひとまず真倉さんの想い人――魚川くんを肝試しに誘い出さなければならない。


 その部分の作戦もまたしっかりと決めなければならないだろう。

 しかし、それはまた今度に回そう。

 身体が弱いという真倉さんを長時間拘束しているのは、彼女の身体に障るだろう。


「まぁ、ひとまず今日はこの辺りで終わりにして、また改めて作戦を立てる日を設けようぜ」


 そう提案すると、真倉さんが心なしかホッとしたような表情を浮かべたように思えた。


「お気遣いいただいて助かります」


 真倉さんはそう言って、頭を下げた。


「では、私はこちらで一旦失礼します」


 ゆっくりと腰かけていた椅子から立ち上がって、真倉さんは慎重な足取りで部屋の出入り口へと向かっていく。

 やはり、俺達には何でもない時間でも真倉さんの負担になっていたのかもしれない。


 再び会釈をして静かに扉を閉めていく真倉さんを見送った。

 彼女の姿は儚げだが、どこか芯が通っているように感じる。

 真倉さんの去った教室内で、俺は一つ溜息を吐いた。


「真倉さんの恋を成就させてあげたいな」


 それは、心からの言葉だった。


「そうだね! 応援してあげたいよね~!」


 間髪入れずに桃香から同調する言葉が飛んでくる。


 彼女の恋がうまく行くように。

 俺たちにできる手助けをしよう。


 誰に言うでもなく、俺はそう心に誓った。

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