番外編「噂の異色カップル」

 がやがやと廊下を生徒たちが埋め尽くす中、俺はその波に沿いながら、体育館に向かっていた。

 今日は終業式。教室で行われた朝のホームルームで、体育館での終業式に参加するように指示を受けたので、それに向かっている最中というわけだ。


 大体はクラスごとに分かれて移動をしているようだ。

 俺は自分のクラス群の丁度真ん中くらいにいるので、一人黙々と歩みを進めていた。

別にクラスメイトに嫌われている訳じゃないぞ。たまたま、話しかけられてないだけだ。

と、誰に言うでもなく言い訳を心の中でしながら歩いていく。


「ねぇねぇ、聞いて聞いてよ!」


 近くを歩いている女生徒の元に、後ろから駆けてきた女生徒が話しかけているようだった。


「どしたの?」

「この前話してた、異色カップルの話だよぉ!」


 興奮する息をゆっくり歩きながら整えている友人に対し、俺のクラスメイトの女子はやれやれ、といった様子で返事をしていた。


「あぁ……あの安藤さんがオタクと付き合ったって話?」

「そうそう!」


 聞き覚えのある名前に、つい耳がピクリとそちらに集中してしまう。


「安藤さんって、あのスケバンの怖い人でしょ?」

「そうだよぉ。そんな人がザ・オタク! みたいな奴とずっと一緒にいるから、その子の友達が大丈夫かなって心配してたんだけどさ」


 あー、やっぱそうなるよなぁ。

 まぁ普通に考えたら俺も心配になるわ。


「大丈夫なわけ……?」


 隣を歩くクラスメイトもやや不安そうだ。


「それがさぁ! どうやら本当に付き合ってるらしいのさ!」

「へぇ……。騙されてる、とかじゃなくて?」


 安藤さんがあんなに佐々木君の事を好きでたまらない、という感じだったことを思い出す。


(あれ知らなければ、まぁそうなる気持ちも分からんでもない)


 ただ、彼女の一生懸命な気持ちや、純粋な想いを考えると彼女たちの意見に辛くなる部分もある。


「それがね、違うみたいなんだよぉ!」


 少し落ち込んでいた所に、友人である女生徒が上げた声で意識を再び彼女たちの会話に集中させる。


「と言うと?」

「なんかね、クラスで昼休憩の時に二人で一緒にご飯食べてるんだけどさ」

「仲良しじゃん」


 本当にな。

 二人がクラスの中でもそんなに堂々と仲良くしているなんて思ってなくて、驚く。


「そうなんだけど! それよりもビックリしたのが、二人分のお弁当を安藤さんが作って来てたんだよー!」

「え、あの安藤さんが!?」


 俺も一緒に安藤さんの顔を思い浮かべてしまう。

 あの、安藤さんがねぇ。

 でもきっと彼女なら佐々木君のためにするだろうなぁ。


「あの安藤さんがだよ! でも、そのお弁当あんまり美味しそうじゃなくてね……」

「おぉ……それは、反応に困るね」


 再び安藤さんの事を思い浮かべて、あぁ……確かに料理とかちょっと苦手そうだなぁ……。と思ってしまう。


「だよねぇ。でもオタク君、その弁当を見て『美味しそうだね!』って言うし、迷うことなく食べて結局そのお弁当完食したんだよ!」

「へぇー……凄いね」

「でしょー!」


 佐々木君、やるなぁ……。


「で、食べ終わって手を合わせて『美味しかったよ』ってニコニコしてたんだよね」

「いい奴じゃん」

「そうなの! それ見て、安藤さんも照れたみたいに嬉しそうな顔しててさー」

「ラブラブじゃん」

「そう! ラブラブなんだよ!」


 そこで一段落したのか、少女たちはまた別の話題を始めたので、俺は盗み聞きをするのをやめた。

 彼女たちの噂していた安藤さんと佐々木君の事を想像して、その微笑ましい様子につい、頬を緩ませてしまう。


 そして彼らの恋の手助けをしたのが自分達であるという事に、誇らしさを感じる。


 気が付くと、もうすぐ体育館にたどり着く頃合いで、俺はその扉を浮足立った気持ちで開けるのだった。


-番外編 終幕-

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