第4話「助っ人・柊柚子登場」
佐々木くんは一気に話し終えると、こちらをそっと見つめてきた。
元々、俺たちの活動の目的は『恋のキューピットをすること』だった。
個人的には、その手伝いをすることで、様々な恋愛を間近で応援できるという事を、魅力に感じている。
なので「くっつけ屋活動」という桃香からの提案も、かなりめんどくさそうな内容だったが渋々了承をした。
今回の件は、助けてくれたスケバンのクラスメイトに『お礼が言いたい』という内容だった。
見ている感じ、佐々木くんはその安藤さんというクラスメイトに惹かれている様子はなさそうだ。
彼の言葉通り、確かに純粋にお礼が言いたいのだろう。
受けるべきか悩んでしまい、目を泳がせる。
すると机の上に置かれていた、読みかけの少女漫画が目に入る。
『不良少年に恋をしてしまった少女の恋物語』だ。
立場は逆だが、先ほどまで読んでいた漫画の内容が脳内をよぎった。
そして――
「わかったよ。手伝おう」
気が付いた時には、佐々木くんにオーケーを出してしまっていた。
桃香によって一方的に俺の相方にされてしまっている霧島が「ちょっと」と、反対するような声を挙げたが無視をする。
「助けられっぱなしは気が引けるよな」
同じ立場なら、俺も多分お礼を言いたくなるだろう。
しかし相手は学内一の女番長だ。
彼の立場からしたら声をかけづらいだろう。
「あ、ありがとうございます!」
霧島が不満を口にする前に、佐々木くんが嬉しそうに俺の手を取るものだから、流石の霧島もそれ以上は言えなかったみたいだ。
俺は佐々木くんと連絡先の交換をして、いつでも協力体制をとれるようにした。
* * *
佐々木くんが空き教室から出て行ったあと、桃香が嬉しそうに俺の方に駆け寄ってきた。
「もー! りょーくんなら絶対受けてくれると思ったよー! ありがとーね!」
同じように俺の元へ足を踏み出していた霧島も、桃香の喜びっぷりに出鼻を挫かれたようで、そっと足を戻したのが視界の端で見えた。
「いやー、しかしどうやってお礼を言わせたもんかなぁ。……スケバンにそう簡単に近づけるとも思えないしなぁ」
先ほどからずっと考えていた事だったが、お礼を言うにしてもあの佐々木くんが、スケバンを取り巻く強面の女たちの前で彼女と話せるとも思えない。
だから、二人っきりで話せる環境を作ってあげるべきなんだろうが……。
俺自身も、腕っぷしで学内一まで上り詰めた女を呼び出す勇気はない。
むしろ、俺は容姿や態度で不良だと思われている可能性もあるので、変に刺激してしまうかもしれない。
「うーん……」
唸っていると、傍で話を聞いていた紅がふと口を開いた。
「あ、そういう事ならオレ、良い感じの友達いるよ~」
思わぬところから飛んできた助っ人の声。
「それ本当か……!? その友達……って、どんな奴なんだ?」
食い気味に紅へ尋ねると、奴は「うーん……」と口をつぐんでから、頭をかしげながら答えた。
「すごく元気な子、かな……」
紅の言葉にポカンとする俺に、奴は「ああ、いや」と両手を振って見せた。
「オレの説明だとよく分からないよね。実際来てもらおうか?」
「出来るのか?」
問いかけるは紅は「全然オッケーだよ」と親指をこちらへ立てて、スマートフォンを手に取り操作を始める。
その指先を何度か素早く動かし終えると、にこやかに顔を上げた。
「今から来てくれるって」
「そうか……って今からくるのか!?」
まさかのフットワークの軽さに驚かされながらもその友人を待っていると、ものの数分もしないうち内に部室のドアが勢いよく開かれた。
「どぉーもー!」
語尾が上がる形の、絶妙なイントネーションで挨拶したその人物は、扉を開けたその手をそのまま俺に差し出してきた。
「あんたが青海クンかいな。はぇーほんまに厳つい見た目してんなぁ。こりゃみんな怖がるのも納得やで」
聞き覚えがあるが耳馴染みはない絶妙な彼女のイントネーションが、関西弁である事にそこでようやく気づいた。
「って、結構酷いこと言うじゃねぇか……」
『厳つい』『怖がる』と言うワードに、つい肩を落としてしまう。
自覚はあっても他人から言われると、これは中々堪える。
「まぁまぁ。そう落ち込まんでも、あんたが良い人なんは、葉太から聞いてるさかい」
紅の事を『葉太』と下の名前で呼ぶ彼女は「せや、挨拶してへんかったな」と手のひらをポンと合わせた。
「ウチは、
言って俺に手を差し出してきた。
断れない彼女の勢いに押されて、ついその差し出された手を握り返してしまう。
「あ、どうも……」
俺との握手を終えるなり、柊と名乗った彼女は桃香の方へと歩み寄っていた。
「んで、あんさんが『桃香ちゃん』やな」
桃香の正面に立ち、上から下までじっと眺めた柊はニコっと笑って、同じように桃香にも手を差し出した。
「よろしゅう、桃香はん」
桃香はその手を一瞬も迷うことなく、両手で握りブンブンと上下に振った。
「うん! よろしくね、柚子ちゃん!」
馴れ馴れしさなら、うちの幼馴染も負けてはいないようだ。
桃香との挨拶を終えた柊は、再び読みかけの小説のページをめくっていた霧島に「久しぶりやなぁ、吹雪」と声をかけた。
「相変わらず元気そうで何よりだわ」
霧島はため息交じりに、柊へ言葉を返した。
「さて、本題に移るんやけどな」
一通り挨拶を終えた柊が窓際に立ち俺たち全員に向き直る。
「安藤さんにお礼言いたい男の子がいるっちゅう話やったな」
俺は頷く。例の男子生徒――佐々木君がスケバンの安藤さんに話しかけるのは中々勇気がいるだろう。
しかも、安藤さんだけならまだしも、彼女の周りには常に取り巻きがいる。
「そうなんだ。安藤さんが一人になるタイミングとかが分かれば、彼もお礼を言いやすいは思うんだがな……」
はぁ、とため息をつく。そんな都合のいい時間があるものだろうか……。
しかし、紅の呼びつけた救世主、柊は「なんやそんな事」と軽く肩をすくめて見せた。
「そんなん、正にウチの出番やないけ」
張った胸を叩きながら簡単に言ってのける柊。こいつはいちいちリアクションが大きいな。
叩かれた胸はそんなに大きくないが。
「ウチの情報によるとな。安藤はんは、毎日昼休みの15分だけ、校舎裏で一人になる時間があるんや」
「そうなのか?」
求めていた情報をドンピシャで提供され、驚いてしまう。
何者なんだ、柊柚子。
「柚子は昔からその手の情報が集まってくるんだよねー」
彼女を呼び出した張本人である紅が、ニコニコとした表情を崩さずに言う。
どの学校にも一人はいる、情報通ってわけか。
そんな使い勝手のいい人材が近くに居るなんて、やるじゃないか紅。
柊にもらった情報を即座に佐々木君に、メッセージとして送る。
「じゃあ、これで明日することは決まったな」
スマホを机に置き俺がそう言うと、霧島はわざとらしく「はぁ」と溜息を吐いた。
「しょうがないですね」
肩をすくめながらだったが、その様子からどうやら承諾してくれたようだ。
「明日の昼休み、佐々木くんと校舎裏、ですね」
渋々と言った表情。しかしそれでも付き合ってくれるつもりらしい。
案外面倒見がいいのかもな。
「応援してるよ、二人とも。頑張ってね」
「りょーくんもぶっきーも、ファイトー!」
隣でお気楽カップルが、他人事のように応援をしてきた。
まったく、薄情な奴らめ。
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