第2話「拠点は空き教室」
結局、俺と霧島の反論・抗議も空しく、桃香の作ったポスターは張り出され、俺たちは空き教室を借りることになった。
桃香が借りたという空き教室はそんなに広くなく、俺たちだけで過ごすには丁度よさそうだった。
ポスターを張り出して依頼者を募るのはなんだが気恥ずかしかったが、空き教室を自由に使わせてもらえると言うのは正直かなり助かる。
そこを使えることになった試しに、と早速教室に少女漫画を片手に足を運んだ。
扉を開けると、そこには既に先客がいたらしく、室内の椅子に座り机に肘をついて奴はこちらを振り返ってきた。
「あ、涼くん。お疲れ様ー」
そいつは、肘をついた状態で携帯ゲームに勤しんでいたようだった。
「よぉ。紅」
こちらに向けていた視線を画面に戻した紅の正面に腰掛ける。
「今日は何のゲームをしてるんだ?」
尋ねると、奴は一昔前のゲーム機画面をこちらに見せてきた。
「ハンハン!」
奴が見せてきたゲーム画面では、大きな剣を構えた主人公が大型のモンスターを前にしている。
「これまた懐かしいなぁおい」
超人気作品なので、ゲーム機のハードなどを変えて何度も新作が出ているタイトルだが、紅の奴が手にしているのは数年前の作品だった。
最近では、そのハード機すら少し懐かしさを感じるほど昔のゲームに、俺のテンションも上がる。
「でしょー! へへっ」
紅も嬉しそうに笑った。
最新のゲームもいいが昔やり込んだゲームというのは、不思議と特別な物のように感じてしまう。
「俺も久しぶりにやってみようかな」
確かまだ部屋のどこかにあるはずだ。
今夜あたり探してみようか、と思いながら空いてる席にカバンを置いた。
「桃香や霧島はいないのか?」
俺が尋ねると、紅は「うーん」と首をかしげた。
「桃香ちゃんは後で来るって言ってたけど、吹雪はどうかな……」
言いづらそうに紅は言うが、俺はまぁそうだろうな、と思う。
あの霧島がここに来るとは思えない。
(かなり嫌われてるしなぁ、俺)
息を吐いたら、思ったよりも深い息が出てしまう。
霧島から特段好かれたいとも思わないが、だからと言って他人に嫌われるのが好きな人間なんていないはずだ。
ゲームを再開した紅を横目で見ながら、俺もカバンに入れた少女漫画を取り出す。
今回は、不良少年に恋をしてしまう所から物語が始まる王道な少女漫画だ。
周りからは恐れられている不良が、帰り道に捨て猫を拾っている場面を目撃した主人公。
普段は強面の彼が、優しい顔を猫に向けているというギャップにやられてしまった主人公。
さて、彼女の恋模様はどうなっていくのか――!?
続きがめっちゃ気になる所で1話が終わり、ワクワクしながらページに手をかけた瞬間。
――ガラッ
不意に教室の扉が開いた。
やっと桃香が来たのか、とそちらに目を向けると、そこには渋い表情を浮かべた霧島の姿があった。
「勘違いしないで欲しいんですけど」
俺が尋ねる前に、ギッとこちらを睨みつけながら霧島が口を開いた。
「試験準備期間だからって、図書室が混んでいたんです。私はこんな所に来たくはなかったんですけど、あんな人が多い場所じゃろくに読書もできないので」
一気に言い切ると、今度は視線を合わせないように紅の隣に腰掛ける。
そして話しかけるな、というオーラを全身で放ちながら、さっさとカバンから文庫本を取り出し、挟んでいた栞を卓上に置くと視線を本に落とし黙々とページを進めていった。
そこまで露骨な態度をとらなくていいだろ……と呆れながら、俺も再び漫画を読もうと視線を落とした瞬間。
「やっほー!」
再び教室の扉が開いた。今度は勢いよく、テンションの高い挨拶と共に。
そちらを見ると案の定、桃香の姿があった。
しかし意外だったのはその後ろに人がいた事だ。
後ろの人物――気弱そうな男子生徒の手を引き教室内に引っ張り込むと、桃香は腰に手を当ててドヤ顔を浮かべた。
「新しい依頼人です!」
嬉しそうな桃香の隣で、明らかに緊張したような面持ちで男子生徒は軽く頭を下げた。
「あ、その、よろしくお願いします」
幸先がいいのか悪いのか。
こうしてくっつけ屋本舗としての活動が始まってしまった。
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