第3章「輝いている君が好き」【オタク×スケバン】
第1話「あなたの恋心叶えます」
梅雨が過ぎ去って、ようやく晴れの日が増えるようになってきた、そんな7月のある日。
「ねぇねぇ! 聞いてよりょーくん!」
何の前触れもなく桃香が俺の教室へ駈け込んできた。
まぁ、桃香は行動が読めないから桃香だし、そう言うところが彼女らしくて好きなんだけどさ。
「なんだよ、騒がしいな」
口ではそっけない風に言って見せるが、教室内を走って俺の席まで来て、必死で息を整えている桃香は微笑ましい。
しかし、桃香の口から出た言葉に俺は驚かされることになる。
「はぁ……疲れた~。あのね、りょーくん! 空き教室を借りることになったの!」
「空き教室ぅ!?」
また突拍子もない単語だ。
何か空き教室なんか使う予定あったっけ?
ふと顎に手を当てて考えてみるが到底思いつかん。
真剣に考えていると、またしても教室に駆け込んでくる人影があった。
「さーくーらーの、さーん!?」
そこには少し髪の毛が乱れた霧島の姿があり、普段のこいつからは想像もつかないバタバタという効果音を立てながら、教室内に入ってきた。
「私は絶対、認めませんからねっ!?」
言って、どん! と俺の机の上に一枚の紙を叩きつけた。
それはチラシのような装丁をしていて、デカデカと『くっつけ屋本舗』という団体名らしきものと、『あなたの恋心叶えます』という謳い文句が書かれていた。
「くっつけ屋、本舗?」
「私とあなたの事らしいですよ?」
ギリッとこちらを睨みつけてくる霧島。
おいおい、桃香が勝手にやったことを、さも当たり前のように俺に八つ当たりしてくるなよな。
「ほぉ……」
言われ、ポスターを手に取る。
まじまじとそれを見つめ隅々まで見ると、桃香に向き直った。
「これ良く出来てるな」
「えへへ~。でしょ~?」
褒められて照れている桃香の横で、霧島が「違いますよね!?」と声を上げた。
「本題はそこじゃないですし、あなたがそうやって甘やかすから――」
言って桃香に視線をやった霧島はぐ、と言葉に詰まる。
チラリと桃香を見やると、唇を噛んで今にも泣きだしそうに眉根を寄せていた。
「甘やかすから……?」
そして、伺うような声色で霧島に尋ねる。
霧島は「とにかく!」と俺に向き直ってポスターを突き付けてきた。
「私はこんな事に参加しませんからね!」
先月、恋のキューピッドをした事は、すっかり雨と一緒に流れてしまったみたいだ。
俺は息を吐きながら「まぁまぁ」と霧島に声をかける。
「どうせこんな事を頼んでくる奴なんていないさ。それにほら――」
霧島からポスターを奪い取り、連絡先の部分を指さす。
「連絡先は桃香になってるし、お前や俺に直接依頼が来ることもなさそうだぞ」
「そうだよ、霧島ちゃん! 二人に負担かけないように私頑張るから!」
隣で桃香がガッツポーズをして見せる。
先ほどまで泣きそうだったのが嘘みたいな切り替えっぷりだ。
桃香の勢いに負け、霧島は怒りをひとまず飲み込んでくれたようだ。
「……余裕があるときしか、私は手伝いませんからね。全部そこのセイカイさんに頼んでください」
「は? 誰がセイカイだ。俺は
「知ってますよ。分かりませんか? 頭の悪い貴方に対する嫌味ですよ。い・や・み」
好きなだけ言うと、霧島はくるりと身体を翻し、その黒髪をなびかせながら教室の外に出て行った。
そして霧島とすれ違うように紅が教室に駆け込みながら「桃香ちゃん! 涼くん! 大丈夫!?」とこちらに寄って来るのを見て、俺はまた一つ溜息を吐いた。
また厄介なことになりそうだ。
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