第3話「雨の思い出を探る」
桃香の友人である佐藤さんから、気になる彼を探してほしい、と依頼をされた俺と霧島は翌日の放課後に再度、彼女に詳しい話を聞くことにした。
今日も天気はあいにくの雨だ。
「で、佐藤さんはその彼について何か分かることはあるか?」
放課後の教室。俺と霧島と佐藤さんは一つの机を取り囲んで座っている。
佐藤さんは「うーん……」と唸りしばらく考え込むが、首を横に振った。
「全く分からないです……。自分でも探してはみたんですが……」
シュンと頭を下げる佐藤さん。そりゃそうか、分からないから俺らに助けを求めたんだもんな……。
同学年ならある程度の目星は付けやすいだろうが、他学年だとそうもいかない。
佐藤さんの話によると、彼は年上のような感じだったと言うし……上の学年の階には中々入りづらい気持ちはよくわかる。
特に気弱そうな佐藤さんが、上級生のエリアを探索できるとは思えない。
「そうよね。……佐藤さん、彼に会った時の状況を詳しく教えてもらえるかしら。彼の服装とか持ち物とか……なんでもいいから」
どうしたもんか、と俺が考えあぐねていると隣の霧島が助け舟を出してくれた。
悔しいがナイス助け舟、霧島……。
奴の言葉に、佐藤さんは再び黙る。しかし今度は指を唇に当て、その時のことを思い出そうとしているようだ。
「えっと、彼は右手に何か大きめの本を持っていました……」
絞り出すように佐藤さんが口を開く。
「大きめの本? 何か辞典のような感じかしら」
彼女の言葉に霧島が頭をかしげた。佐藤さんは「あぁ、そっちじゃなくて」とすかさず言葉をはさむ。
「厚さがある、というよりは、本当に大きい本という感じでした。辞典というよりは……図鑑、みたいな感じですね」
その言葉に俺たちは更に首をかしげる。
「図鑑、かぁ……」
図鑑の中身が分かれば部活などから絞り込めるかもしれないが、彼女の話だとそれは難しそうだ。
「そうです。それで、その図鑑を彼はカバンに入れて……あっ!」
そこまで言って、彼女は声を上げて手を叩いた。
俺と霧島が何事だと、佐藤さんに視線を向ける。
「彼のカバンにはお守りが付いてました。あれ、多分、涼宮神社の合格祈願守りだと思います!」
あまりに自信満々に言う佐藤さんに俺たちは目を丸くした。
涼宮神社は、俺たちの通う高校の近所にある少し大きい神社だ。地元では結構有名な所らしく、年末には多くの人で賑わっている。聞く話によると、遠方から来ている参拝客も少なくないようだ。
しかし、佐藤さんはその神社のお守りだと何故分かったのだろう。
「そんな事、よくわかりますね?」
隣の霧島も同じことを思ったようで、すかさず口をはさむ。
「私、姉が今年受験生で……大学に合格できるように、って今年の年始に並んで買ったんです」
少し照れたように笑った佐藤さん。
どうやら彼女はお姉さんと仲がいいようだ。他人の和やかな家庭事情に少しほっこりする。
しかし、彼女の言っていたことが当たっているとすれば――
「じゃあ、傘を貸してくれたそいつは、三年生かもしれないって事だな」
「そうね」
俺の言葉に珍しく霧島も同意する。
「あ、そっか……」
ほどなくして、首をかしげていた佐藤さんも頷いた。
「合格祈願守りを付けている、ってことは受験生なんですね」
言って「なんでそんな事気づけなかったんだろう……」と彼女は身をすくめた。
「まぁ、俺らに話すことで細かい部分まで思い出したからだろ」
彼女が落ち込まないように、声をかける。すると霧島がすっと椅子から立ち上がった。
「え、あ……霧島さん、どうしたんですか?」
佐藤さんも慌てた様子でそれに続く。
「決まっているでしょう。佐藤さんの想い人を探しに行くのよ」
霧島はさも当たり前というように、言ってのける。
「えっと、三年生の教室に……?」
「いいえ」
投げかけられた質問へ、霧島は速攻で回答を返した。
「図書室よ」
言ってさっさと霧島は教室をでる。
「あ、待てよ!」
それを慌てて追いかける俺と佐藤さん。
雨音を背に、廊下を三人の足音が響く。
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