第9話「くっつけ屋本舗?」


 水族館での桃香と紅のデートが終わって。

 俺と霧島。桃香と紅はそれぞれ日常の学園生活に戻った。


 桃香と紅は結局、付き合うことになった。

 それにより、俺の学園生活が劇的に変わったかと言うとそんな事はなく、今まで通りに平穏無事に過ぎ去っていった。


「って、なんでお前らここにいるんだよ!」


 ……と言いたいところだけれど、そうもいかなかったのが現状である。


「いやぁ、葉太くんにりょーくんの事話したら、会ってみたいって言ってたからー」


「初めまして! オレ、紅葉太って言います。涼くんのことは、桃香ちゃんから聞いてます! オレ、涼くんと仲良くなりたくて!」


 そう言って、葉太から差し出される右手。

 俺は、ついその手を握ってしまう。


「あぁ、どうもご丁寧に。よろしく」


 握ってから、はっと我に返り、俺は頭を抱える。


(って! よろしく。じゃねぇし!! これ、俺もしかして何か試されてる!?)


 そう、頭を抱える俺の横で、冷たく刺さるような声がする。


「本当、青海ってバカよね」


 顔を上げなくても、その呼び方。その声で誰だかわかってしまう自分が悔しい。


「なんで、お前まで居るんだよ……霧島ぁ……!」


 顔を上げると、ふふんという表情で俺を見くだしている霧島の姿があった。


「そんなの、葉太に呼ばれたからに決まっているじゃない」


 青海のためになんか、こんなところに来ないわよ。と、クソムカつくようなことを言いやがる。


 そんな霧島に、桃香が「あーっ!」と声を上げた。


「霧島ちゃん! 吹雪ちゃんだよね!!」


 霧島はそんな桃香の言葉にびくりとする。

 霧島の様子など気にも留めず、桃香は言葉を続ける。


「私ね! 霧島ちゃんに色々聞きたいことがあるんだ!」


 言って、ドン引きしている霧島を見て、ハッとしてすごすごと俺の後ろに隠れた。


「……あるんだけど、また今度にするね……」


 隠れながら、ひょいとちょっとだけ顔をのぞかせ、桃香は霧島を見た。


「でも……私、吹雪ちゃんと、友達になりたいの」


 そう言って、上目遣いで霧島をみつめる桃香に、霧島はうっと言葉を詰まらせる。


「べ、別に今度ご飯くらいなら、一緒してもいいわ……」


 霧島の承諾を得た桃香は、嬉しそうに「やったー」とニコニコ笑顔を浮かべる桃香。

 そうしてそのまま霧島の隣の席に腰かける。

 なんだかとっても嬉しそうだ。


 ……じゃ、なくて。


「なんで、お前ら三人がここにいるんだよ?」


 それに一瞬きょとんとしてた、三人だったが、まず口を開いたのは霧島だった。


「いや、私は葉太に呼ばれて」


 言って、霧島は紅を見る。

 言葉を受けた紅は、うんうんと頷くと桃香を見た。


「オレは、桃香ちゃんに吹雪を呼んで、涼くんの教室に来るように言われたよ?」


 全員の視線を集めた桃香はふっふっふーと嬉しそうに顔をほころばせ、少しどや顔をしながら俺と霧島を見た。


「りょーくんと、吹雪ちゃん! 君たちこの前私と紅くんのデートを見てたでしょー!」


 言われて、俺と霧島はびくっと身体を強張らせる。


(えっ……!? ばれてた……!? よりにもよって桃香にばれてたとは……!)


 侮るがたし、桃香……!

 俺は二人の邪魔をしたことを咎められるのか……と落胆した。


(あぁ、ついに桃香に嫌われてしまうのか……)


 長い初恋は、今度こそ完全な終わりを告げてしまうようだ。


 俺は心の中で、両手を組んだ。

 せめて、嫌われるなら、自分の想いを伝えて、嫌われたかった……。


 霧島も、顔面蒼白と言う感じで紅を見ていた。


 紅はへぇーと言うような顔で、俺たちを見た。


「吹雪も、涼くんも来てたんだー」


 そっかーと至ってのんきな調子だ。

 俺は再び桃香を見る。


 桃香はふふん、とどや顔をつづけたまま「私に分からないことなど、ないのだよー」と言っていた。


 謎。

 桃香の発言はとことん謎である。


 言ってから、桃香はふっと表情を緩めて俺と霧島に向き直った。


「あのね、りょーくんと吹雪ちゃんが私と葉太くんのキューピットみたいなものだと思ってるんだ」


 言って、桃香はへへっと笑った。


「だって、二人ともずっと私たちを見守ってくれてたでしょ?」


 ずっと、ってことは結構前から俺らの様子に気づいていたって事か……!

 桃香、おそるべし……。


 けれど、俺と霧島が二人の邪魔をしようと言うことに気づいてはいなかったようだ。


 ちらっと霧島の様子を伺うと、霧島は意外にもばつが悪そうな顔をしていた。

 こいつの事だから、即座に否定して「貴女たちの邪魔をしようと思ってたのよ……!」なんて言うかと思ったが、かなり意外だった。

 桃香に、毒気でも抜かれたのだろうか。


 桃香は俺らの様子など気にすることなく、話を続けた。


「ほら、りょーくん少女漫画好きでしょ?」


「ばっ! それは内緒にしてっていってるだろ!?」


 紅と霧島の顔を覗き見ながら、俺は慌てて手を振った。


「ちが、違うんだ! 桃香が勝手に俺に少女漫画を貸してくるだけで! 俺は、別に好きじゃないんだ!!」


 必死の抵抗も虚しく、桃香は言葉を続ける。


「何言ってるのー。自分で貸した漫画の続き買ってるくせにー」


 ぷくぅっと顔を膨らませて言う桃香。


 あぁ……頼むからそれ以上何も言わないでくれ……。


「でね、りょーくんまだ部活も入っていないみたいだし? 吹雪ちゃんと二人で『くっつけ屋』やってほしいなって!」


「「はぁ???」」


 突然の申し出に、俺だけでなく霧島からも驚きの声が漏れ出る。


「え、私がなんで青海なんかと、組まなきゃいけないの??」


「それは俺も同意見だ。なんでこんな女なんかと……!」


「こんな女って、なによ? 青海のくせに私を下に見てるわけ?」


「青海のくせに、とはなんだ。あぁ??」


 今にもつかみかかりながら喧嘩を始めそうな俺たちを見て、桃香ははははと笑った。


「ほらー。息ぴったしじゃん!」


「「どこがだ!!」」


 同時に声を重ねる俺と霧島。

 ハモった声に、お互いをぎりっとにらみつけ、ふんっと顔をそむけた。


「まぁまぁそう言わずー。この間の話を友達にしたら、是非二人に話を聞いて欲しいって子がいるからさ。話聞いてくれないかな?」


「いやいや、勝手に話すすめるなよ……!」


「そうよ、私もこんなやつとなんて絶対! お断り!」


「それは俺のセリフだっての!」


 そんな風に、いがみ合って罵り合う俺と霧島を見て、桃香は苦笑いを浮かべた。


「本当に二人ならいいコンビだと思うんだけどなぁ……」


「確かにねぇ」


 なんて、桃香・紅カップルはのんきに他人事だと思って俺たちの事を勝手に話していた。


「「こんな奴となんて、絶対! お断り!!」」


「ほーらまたハモったー」


 なんて。

 俺たちの幼馴染への片思いは、ボロボロに崩れ去ると思っていたのに。

 幸か不幸か。案外腐れ縁はしぶとく残ってしまうようだった。


 そうして、なぜか俺と霧島は『くっつけ屋本舗』と言う名前で、カップル未満な男女の仲を取り持つおせっかい屋になってしまうのだけど。

 それはまた今度の機会に話すとしよう。


-1章 END-

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