第3話「ランチタイムミーティング」

 霧島に『葉太と桜野さんとの仲を邪魔するのを手伝いなさい』と言われた翌日。

 俺と霧島は桃香や紅が、昼ごはんを一緒に取っている場所から少し離れた所で、二人の様子を見守りながら昼飯を食べるようになった。


 聞くと霧島と紅も、俺と桃香がそうであったように、幼稚園の頃からの幼馴染らしい。

 紅は人づきあいが上手で、逆に人見知りだった霧島と他人との仲介役として昔から間に入ってくれていたのだ、と話す霧島は普段の様子と違い穏やかな目をしていた。


「葉太は本当に優しいのよ」


 綺麗に詰め込まれたお弁当のおかずを、見事な箸さばきで口に運びながら、霧島は呟くように言った。


「誰にでも優しいし、だれに対しても親切だし。ただ、欠点を一つ挙げるとすれば、その八方美人なところだと思うの」


 静かにそう言う彼女は初めて出会った時よりも、ずっと落ち着いていて、それが元々の彼女の姿なのだろうと思った。


「八方美人、別に俺は悪くないと思うけどな」


 そう言った俺に、彼女は呆れるようにため息を吐いた。


「八方美人自体は別に悪くはないと思うわ。けれど、それが自分の好きな人だったら、どうかしら。貴方の想い人だって、現に八方美人な人間だと思うけれど?」


 言って、彼女はちらりと桃香を見る。


 視線の先にいる桃香は、紅と楽しそうに会話をしていた。

 

 ……確かに。

 幼い時から俺は桃香の事を好きだった。

 昔から体格や目つきのせいで他人に遠巻きに見られがちな俺と違い、桃香は誰とでも親しくなるのが上手だった。

 だからこそ、俺みたいな奴の幼馴染なんてできるんだろうが、昔の俺はそんな桃香の人当たりの良さが羨ましくて……すこし悔しかった。

 

 あぁ、俺ももっと彼女に見合った男になれたなら、と何度思った事だろうか。


 そんな風に俺が黙り込んで思いを馳せていると、霧島ははぁと息を吐いて言った。

 

「ちょっとした嫌味のつもりだったんだけど。そんなに真に受けないでくれるかしら」


 そんな風に言った後、霧島は今度は紅に視線を移した。


「葉太はね、昔から女にモテたのよ」


「あぁ、そんな感じするな」


 それは常々思っていたことだった。

 こいつはモテるだろうな、と。


「女の子の友達が昔から多くてね。今でこそ葉太の幼馴染は私くらいだけど、昔はライバルが多かったわ」


 そんな霧島の口ぶりに、こいつは本当に昔から紅の事が好きだったんだな、と感じた。


「好きな人が、いろんな女から好かれるというのは、誇らしいけどかなり複雑なものなのよ。彼のいいところは私だけが知っていればいいのに」


 言って、一息つくと霧島ははぁと再びため息を吐いた。

 

「もう何度、葉太に近づいてくる女を呪い殺そうかと思ったか分からないくらいよ」


 言って霧島はゆっくりと顔を左右に振った。


「いや、本当にそんなことは一度もしていないけど。でも、やっぱり許せない瞬間はあるわよね。……今回とかみたいなのも」


 そんな霧島のセリフにドキッとした俺は、霧島にくぎを刺した。

 

「……おい、桃香に何かしたら、俺はお前を許さないぞ」


「わかってるし、それは私も一緒よ。そのために私たちは葉太達の恋路の邪魔をする共同接戦を張っているんでしょう?」


 霧島はさも自分は悪くない、と言うように肩をすくめると、悪びれもせずにそう言った。


 そんな事をしているうちに、桃香と紅のランチタイムも終わり、俺らも奴らに気づかれないうちにその場を去ることにした。

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