傘の恩返し

「恋人になりにきた。」

「・・・はい?」


 深夜2時天候は雨。

 上下ツギハギだらけの紺色の服に紺色の目、骨折しているのか片腕を釣った男がやって来て突然そう言った。


「すみません。誰ですか?」

「俺は君の曽祖父の頃から使えているものだ。名は雨守(あまもり)という。」

「えと、誰ですか?」

「だから雨守と言っているだろう。」

「ストーカー?」


 雨宿早希、産まれてこの方25年。初めてのストーカーだ。


「違う!君は昨晩祈っただろう。彼氏が欲しいと」

「え?あ、そういえば・・・」


 昨晩見た夢を思い出す。

 なんか変な光球が願いを聞いてきて彼氏が欲しいとか言ったような・・・。


「夢のやつ?」

「それのことだ」

「・・・あんた何者?」

「だから私は雨も」

「それはもう良いから。あの光があんたってわけ?」

「それは神様だ。そう言っていただろう」

「夢なんて起きたら忘れてんの。なんとなく覚えてるだけでも奇跡なんだから」

「お前!わざわざ神様が夢枕に立って下さったというのに!」


 どうやら昨晩神様が私の枕元に立っていたらしい。


「気持ち悪いね。それ。」

「おっお前っ・・・!」

「とにかく、私は初対面の人といきなり付き合うほど尻軽じゃ無いので」


 バタン


 ドアを閉め鍵をかける


 インターホンが鳴る。無視

 インターホンが鳴る。無視

 インターホンが、以下略。×3


「あーもううるさい!」


 雨守が土下座していた。


「お願いします・・・」


 なんだか不憫になりとりあえず家に上げた。


「ひいじぃちゃんの知り合いにしては若いよね。」


 どう見ても20代だ。


「まぁ人じゃ無いからな。とりあえずもう遅いし寝るとするか。」


 私のベッドに向かう雨守。


「待て待て待て、ツッコミどころ多すぎて困るて。まず人間じゃ無いなら何?私のベッドで寝るつもり?」

「一つ目は言えん。そういう決まりだからな。二つ目はそういうものじゃ無いのか?恋人とは。その為に枕も2つ買っておいたのだろう?恋人の為に。」

「何故それを!?キモいっ!やっぱ出てって!」

「キモいとは失敬な!そういえばお母様が滞在中のはずでは?」


 出てく気はさらさらないらしい。なぜ上げてしまったのだろう。


「もういいや。あんた不思議と害無さそうな感じするし。一昨日お母さんに大事な傘捨てられちゃってさ。お父さんの形見なのに。ボロボロだからとか言って。ツギハギしながら大事に使ってたのに・・・。それで大喧嘩して帰らしちゃった。」

「それは・・・申し訳ない」

「なんであんたが謝んのよ」

「いや、なんでもない。」


 なんだか不思議なやつだった。私の事なんでも知ってて、気持ち悪いのに嫌な感じがしない。


「一緒には寝ないけど、話し相手にはなってあげる。朝になったら追い出すからね。」

「うむ。それでは早希の父の話でもしようか。」


 雨守は私が小さい時に死んだお父さんのことをよく知ってて色々教えてくれた。

 お父さんとお母さんは雨の日に出会った事。

 初デートも雨だった事。

 そして、私を出産した日も雨だった事。

 私の雨女は両親から引き継いだものらしい。


 一通り話終わると雨守は急に真剣な眼差しでこちらを見つめ始めた。


「・・・早希に話したいことがある。」

「な、なによ?」

「このあいだの恋人の事は申し訳なかった。だが、あの男は早希の良いところを全く理解していなかった。」


 ついこの間彼氏にフラれたことも知っているらしい。様子的にそれがショックで今引きこもっていることも知っていそうだ。


「なんであなたが謝るのよ・・・あんな最低な男、気にしてないんだから!」


 本当最低な男だった。フラれた時散々私の悪口言って、挙げ句の果てにツギハギして使ってたお父さんの形見の傘を汚いだのみっともないだの言いながら傘の骨をへし折って行きやがった。

 それをお母さんに話したら傘を捨てられたのだ。


「俺はずっと早希を見てきた。君はとても優しくて、魅力的な女性だ。それを俺は知ってる。自身を持ってくれ」

「・・・。」


 それほど大した事は言っていないし、相変わらずストーカーじみてる。でもその言葉は何か心にくるものがあった。体の芯から温かくなる感じ。


 雨守といると不思議と落ち着く。


 私は素性もよく分からない彼を好きになってきていた。


 外の雨は上がっていた。


「すまん、早希。俺はもう行かねばならない。」

「え!?なんで!?もっといなよ!私明日休みだからさ!」


 私は思わず彼を引き止めた。何故だかもう会えない気がして。


「それは出来ない、最後に一つ言わせておくれ」

「俺は君のそばにいる。心に雨が降ったなら俺を使っておくれ。」


 意味のわからない言葉を残し雨守の姿が突然見えなくなった。


「雨守!!!」


 彼が消えた場所に、私が昔から傘につけていたクマのキーホルダーが落ちていた。


「これって・・・」


「おっといかんいかん。」


 帰ってきた。


「これ大切なものなんだ。じゃまた雨の日に」

「え?・・・」


 そして私は雨の降る日にしかやって来ない彼氏が出来た。

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