第三幕

ましろの空

 一九六〇年一一月末。共和国北西の端。隣国との境にある廃墟の地。

 今、俺が見上げる空はましろに覆われ、雪がしんしんと降り続けていた。

 共和国の冬は空が晴れることなど滅多にない。ほとんどの日々があの色で、雪が降らない日のほうが珍しいのだ。

 でも、今の俺に、この雪は空が涙しているようにも見えた。

 これから迎える死を前にして、感傷的になっているのかもしれない。

 自分の産まれた地――戦火によって焼けただれ、十数年放置された廃墟――で、死ぬ。

 神よ、運命と言うにはあまりにも残酷ではありませんか。

 飢えと寒さのあまり、意識が朦朧としていく。最期に想うのは、あの子のこと。いつも隣にいた彼女は今いない。孤独が、俺に生への執着を弱まらせている。


 ……さようなら、マイラ。僕の一番……

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