自作詩 《夏の盛りに》

夏と言えば鰻である。今夏はあまり売れていないそうだが、絶滅危惧種指定が尾を引いたり値段が上がってきたのが効いているのか?

ぼくの住む町は港町で漁業が盛んである。夏にはある丼が売り出されるのだが、今のところ美味い店は少ない。そんなわけで期待を込めて書いた詩である。



《夏の盛りに》


たっぷりの鰹と鯖に昆布が溶け出した

旨味の大海に浮かぶもの

流し込まれた卵をまとい

おまえはさらに

鮮やかなトマト

あさつきで飾られる


潮騒に微睡み

すくすくと育ったおまえたちが

母なる岩から引き剥がされ

白米の頂きを飾っている

その望郷の念が、哀しみが

いっそう、おまえを美しい味にするのか

おまえを硬質な殻から引きずり出した

人を恨んでいるのか


わからない、おまえの気持ちに拘らず

わたしはおまえを食するのだから

すべては腹の闇のなか


岩牡蠣よ、美味いからこそ

わたしは少し後ろ暗いのだ




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