共同生活
その日から、高円寺にある俺のマンションで俺とヒナタとの奇妙な共同生活が始まった。
俺のマンションは高校生の一人暮らしとしてはかなり恵まれていて、間取りは1LDKあり、駅近の風呂トイレ別だ。
家賃はあまり覚えていないが、14万くらいだったと思う。
肩書きだけの両親は、俺が『高校に入ったら一人暮らしをしたい』と言うと、『自分一人で生活してみるのも社会勉強のうちだ』とにこにこと笑って承諾してくれた。
金の有り余ってる彼らは、俺が頼めば何でもしてくれる。
社会勉強とは、自分で働いて家賃を払って生活費を工面してこその社会勉強じゃねーのか?と思う。
自分らもそうやって何不自由なく育てられたのに違いない。
決して悪い人たちではなかったが、一緒にいると、そういう頭の悪さがうつりそうで嫌だった。
感謝はしている。
今、俺がこうやって遊んでいられるのは、あの人たちのおかげなのだ。
たいして生きていたいたいわけではなかったが。
うちに到着すると、ヒナタはリビングにある真っ赤なカウチソファーに横になって、俺が買い物に行っている間に、猫みたいに丸くなって眠り込んでいた。
それから、そこはヒナタの定位置となった。
その気はないと言ったものの、初めは隣の部屋に女が寝てると思うと、興奮してうまく寝付けなかった。
3日経って、とうとう我慢出来なくなってビールを2缶飲んでからベッドに入ることにした。
俺の淡い期待は、見事に打ち砕かれる形になった。
もしかしたら、この子と、そういう関係になるかもしれないと、どこかで期待していた。
俺はまだ、女とセックスしたことがない。
周りは、オタクと引っ込み思案以外は大体済ませているみたいだったから、焦る気持ちと、何より当然、興味はあった。
だけど、まだ俺はセックスをしたことがない。
そういう機会がなかった訳じゃない。俺はひと通り遊び歩いてたし、クラブとかにも顔を出していたから、『お姉さんが教えてあげようか?』なんて言ってくる女もいた。
だけど、なんていうか、女みたいだって笑われるかも知れないが、初めての女が、そんなビッチなのは嫌だった。
俺はそんなに落ちぶれちゃいないつもりだった。
とにかく、下半身で生きてるような人間を、俺は軽蔑してる。
俺は決して、そういう人間にはなりたくない。
快楽のために、人としてのモラルを捨てて、誰かを傷つけることも厭わない、俺はそういう人間にはなりたくない。
生活してみて、ヒナタという人物はどんな人物か、『お父さん』とはどんな人物か、非常に興味を覚えた。
ヒナタは、驚くほど常識というものがなかった。
彼女といると、一体、今までどうやって生きてきたのだろうと疑問に思うことばかりだった。
ある時はガスコンロをつけて手をかざし、『これは火ですか?』と聞いてきたこともあった。
そうやって、いちいち家電の説明や、買い物の仕方や、お金の種類などを説明しないといけなかった。
かと思うと、妙に薬の名前や、食品の成分や、機械の仕組みなどには詳しかった。
それに、一度教えたことは、どんな複雑な使い方でもすぐに覚えてしまうほうで、とても頭がいいのには間違いなさそうだった。
ヒナタは異常なほどの箱入り娘として育てられたのではないか。
そんなふうに推測した。
『お父さん』が死ぬまで、外にも出さずに、屋敷の中で一人で育て上げた箱入り娘。
そうだったとすると、この奇妙な個性にも納得ができそうだった。
しかし、そうだとしても、正確な年齢は分からないが、十何年、ここまで常識もなく生きてこられるものなのだろうか?
一緒にいればいるほど、俺の中で、ますますヒナタに対する疑念は深まった。
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