視線には、気づいてる?

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

文学はキミの友達

 苛立たしげに、アゲハはヘッドフォンを外した。

 僕に、きつい視線を突き刺さしてくる。


「なによ、ホトリ。小説のあらすじ作りで悩んでるJK見てるの楽しい?」

「いや、別に」


 僕は、読みかけの本へと視線を戻す。


 彼女は、小説のコンテストに応募する作品を考えている最中だ。

『ラノベ甲子園』だっけ。

 作業場として選ぶのは、決まって僕の部屋。

 僕ん家のお向かいさんで、アゲハの家には幼い妹がいて、構って欲しがるため集中できないのだとか。

 アゲハの妄想スペースは、いつも窓際だ。

 遙か向こうに、海が見えるからだろうか。

 本棚にもたれ、メタルラックに足を引っかけて。

 真夏の直射日光の下で、アゲハはメモを開くのである。

 まるで、潮風に乗ってくるアイデアを書き留めるかのように。


 アゲハはヘッドフォンを定位置に戻し、メモへ視線を戻す。

 創作物の世界へと埋没する、いつもの儀式だ。


 その間、僕は彼女に声をかけられない。

 仕方なく、僕は床に寝そべって、本の世界へ入り込む。

 窓の前には、ちゃんと机もある。本棚の隣に。

「使ってもいい」とアゲハに許可しているのだ。


 だが、アゲハは頑なに、机を使おうとしない。

「ここが一番集中できる」と言って。


 小説は好きではなかったが、幼い頃からアゲハに勧められて読み始めた。

 中学校に上がる頃、アゲハが「小説を書きたい」と言い出す。

 ラノベ作品が好きで、自分もあんな物語を書きたいと。

 作品を添削するため、僕はより多く小説を読む重要性ができた。

 今では、アゲハより詳しいのではないか?


 セミの歌声をBGMに、ページをめくる。

 炭酸のボトルに手を伸ばした。

 強烈なレモン味が、喉へ流れ込む。 

 また、アゲハに視線を向けた。


 アゲハは難しい顔をしている。

 ページをコンコンと、ボールペンでノックしていた。

 

「あーもう、ダメだ!」

 アゲハがメモを投げ出す。

「何にも浮かばない!」

 言いながら、アゲハは側にあった炭酸のボトルを空け、中身をあおる。

 レモン味に顔をしかめ、ふう、とため息をついた。


 僕の顔近くに置かれたメモを、アゲハの了解なく開く。

 

「一二〇〇字だろ? メモなんているのかよ?」

 規定文字数が少なすぎて、詳細なプロットなんて必要なさそうな気も。

「バカにできないのよ、少ない文字数でも。作家生命掛かってるんだから」

 すごい意識の高さだ。まだ、卵にすらなっていないのに。


 お題は、「文学は、キミの友達」か。

 これをテーマに作品を書けと。


 僕は、このテーマに引っかかりを感じた。


「文学がお前の友達ならさ」

「なによ?」


「お前にとって、僕はなんなんだよ?」


 なぜか、アゲハは目を泳がせた。


「な、なんて、説明すればいいのかな?」

「パートナー?」

「そう、それそれ!」

 体のいい解答に、アゲハが食いついた。

「素人とは言え、ホトリは大切な編集さんなんだから!」

「そっか」


「だって、私は文学を理解できても、私を理解してくれるのは、ホトリだけだもん」


 今度は、僕が声を出せなくなる番だった。

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視線には、気づいてる? 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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