結びの一番

 結びの一番:


 あれから月を二つ重ね、ナガツキ(九月)になった。

 秋津洲皇国、帝都新京のカブキチョウ国技館は、女子大相撲ナガツキ場所の初日を迎えた。

 幕下以下が相撲を取るマルヤマ国技館と似ていながらも、それより広い客席を持ったこの国技館はまだ午前中で、客はまばらだった。

 しかし、それでも繰り広げられる熱戦は強く熱く、客席を大いに沸かせていた。

 その土俵下西溜まりに、新十両となった天ノ宮の姿があった。

 ──思っていたより静かだけれども、これはこれでいいものですわね。

 彼女は、この土俵の雰囲気を楽しんでいた。

 微塵も、緊張している様子はなかった。

 あれから鬼金剛と稽古をしてきた日々、そしてたくさんの女力士達と稽古をしてきた充実の日々が、彼女をさらに強くしていたからだった。

 初日の前日、月詠親方はこう言ってくれた。

「無理をして勝とうとするんじゃないよ。本場所は十五日間ある。それが終わって、勝ち越していたらいいんだ。わかったね?」

 その励ましが、彼女をより気楽にさせていた。

 それに彼女は稽古を重ね、たくさんの魔法を得ていた。それも気楽さの理由だった。

 やがて、土俵上の呼出の声が朗々と呼び上げた。

「にぃーしー、あまーのぉーみぃーやー」

 呼び出しの声に頷くと、彼女は立ち上がった。

 彼女の組衣は、何色にも幾重にも光り輝く、虹のような組衣。その体に締め込まれた、晴天のように真っ青な木綿製の廻し。

 それが彼女の相撲装束だった。

 あらゆる魔法の力を秘めた、虹色の乙女力士。組衣にはその意味が込められていた。

 髪は、銀の長髪が下ろされ、左右の耳のあたりには、小さな白い布飾りが飾られていた。

 徳俵前へ腰を下ろし、塵浄水の作法をする。それだけでも、心が高揚する。

 ──さて、わたくしの十両デビュー戦。

 思いっきり楽しもう。

 感じよう。

 彼女は、心の中で小さく頷くと立ち上がり、西の白房下へと向かっていった。


 そして、次の一番が、始まるのであった。


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