第25話 俺達の居場所はどこですか?

心に倦怠感けんたいかんじみた何かが渦巻いていた。

「俺は昔いじめの対象になっていたんだ」

帰って来る声は無い。でも、自然と口が動く。

誰かに共感して欲しかったのかもしれない。

「中学生の頃。原因は分からなかったけど、クラス全体からいじめられてた。

いじめと言っても、無視や過度なイタズラや嫌がらせみたいなのをほぼ毎日食らってただけで、暴力も道具を壊されるとかもされたわけじゃなかったからな。

先生達もいじめか判断出来無かったんだろう。一度先生に言ってから、もうそれを受け入れたよ」

「・・・・・・」

沈黙のなかに微かに街の生活音に紛れて、不規則になった呼吸音が聞こえる。

「中学三年間は学校一の可哀想な奴って言われてたよ。

おかげで、卒業アルバムの後ろのページが白紙で母さんに見せろって言われた時はごまかすの大変だったな」

「そんなことがあったのに何で今へらへらしてられるんですか?」

「へらへらしてるのは認めるけど、別に俺は乗り越えた訳じゃ無いぞ?

乗り越えてたら、今みたいに友達ゼロ人なんて状況じゃねーよ」

「・・・・・・・・・・・・わ、私も」

「俺は居場所が無かったけど、今はある。全然、綺麗じゃないし、むしろ汚いし。なんと言うか、そこに居ても疲れるけど・・・一番落ち着く最高の居場所だ」

「・・・・」

「辛い物食べた後って、甘い物がもっと甘く感じるだろ。多分それと同じ事なんだろうな。自分で作ったからこそなおさら良いんだよな、きっと」

「自分で・・・作る?」

「おう。料理でも部活でも自分で作った方が何倍も嬉しいし、心地良い。

でも、苦労してまで作らなくて良いんじゃないかな。自分で作ったものと同じ位に既にある物を好きになれば良いんじゃないかな」

あれ?すごい今更だけど、話し相手幻聴じゃないな。

うわっこりゃ恥ずかしいな。絶対に今後こいつとは会わないようにしよう。

俺の顔が発火したかのような熱さがほとばしる。

「いろいろ変なこと言ったかもしれないけど・・・あれだ。

・・・何の話してたっけ?ああ、そうだ。居場所がいるのはそうだけど、無いなら作れば良い、探せば良い。そんで見つけたら儲け物だ。

そんじゃ、俺は俺の居場所守ってくるかな。良かったら見に来てくれよ。個部はいつでも暇だからな。お茶くらいは出すぞ。じゃあな」

「・・・・・」

ー数日後ー

「結局、誰一人来なかった。今日が入部決定最終日」

落ち込み具合が最底辺に来ている。

さっきから橘先輩はぬいぐるみの中で「スヤァ」寝息を立て現実逃避している。

溜息しか出ないこの状況で周囲の沈黙を切り捨てる様な足音・・・いや走音?

が近づいてくる。

ドアがバァンと勢い良く鳴らし開かれる。

そこから現れた謎の銀髪少女。

「入部したいんですけど!良いですか!?」

一瞬の静寂が訪れ、激しく動揺した俺のすぐ横を橘先輩が物凄い速さで通り抜け、

銀髪少女にしがみついた。

それに激しく動揺した銀髪少女と荒ぶる先輩を見て、俺は落ち着きを取り戻す。

「この部に入ろうとした理由は?」

彼女は急に表情が穏やかになり、優しい口調で答える

「自分の居場所、見つけたんです」

瞬間的に顔が今まで感じたことの無いような熱を発し、この状況を理解した。

少し渋い顔をしていると、彼女は笑みで返す。

もう笑うしか無いな!

「ようこそ個部へ!歓迎したいけど、その前に、今すぐ先生に申請しないとこの部活無くなるから急いで教務室行こう」

「いこー!!」

「はっはい!先輩!」

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