第22話 タイプを聞いちゃダメですか?

しずかさや 岩にしみいる 蝉の声

松尾芭蕉の読んだ句が似合うほど、部室の中は静かだった。

ギャルゲーなんて物を後輩と二人っきりでやっていたら会話も減るだろう。

蒼がギャルゲーなんて目もくれずに、ヒスイ(猫)をもふっていたら気まずい雰囲気にならずに済んだのだが・・・。

「・・・・」

無言で画面を凝視していて、なんと声をかけたら良いか見当もつかない。

あれだ、はじめてル○バ見た時のうちの猫みたいな感じになってる。

考えても仕方がなさそうだし、さっさと終わらせるか。

操作を再開するが、ここがある種の難関だな。

キャラ選択で幼馴染み、先輩、後輩、妹の四キャラが表示されている。

プレイ前に攻略?相手を決めておくみたいで、一人攻略?出来たら感想書いて終わりにしようと思っている。

「私にするの?」

スピーカーからテキストに書かれている台詞と同じ台詞の女性の声がする。

さっきからこの台詞を何回聞いたのだろう。

選択キャラを変更するたび、蒼にチラ見されてなんか選びづらい。

もう誰でもいいや。

俺はまぶたを閉じ、十字キーの右を長押し、適当なタイミングで選択ボタンをダブルクリック。

「一体誰になったんだ?」

まぶたを開くと、蒼はチラ見して、画面には後輩タイプのキャラが表示されている。

そこから始まるストーリーは、ひねくれている陰キャ高校生が日常を通して友情、愛情をはぐくんでゆく、よくあるハートウォーミングストーリーだ。

趣味が読書なせいか、笑わせよう、同情させよう、萌えさせようという根端が丸見えで冷めてしまう。

そして眠気が襲ってくる。

「先輩」

「ん?なんだ?」

「先輩はどんなタイプの女性がいいんですか?」

「なんだ急に?」

ぼやけている視界とゲームにほとんど使われている頭で言葉を返す。

「良いじゃないですか」

「・・・なんだか分かんないけど、考えたことないから分かんないな。風見はどうなんだ?」

「私ですか?私は優しくて、いつもかまってくれて、あと・・ちょっと意地悪な人が良いです」

それで、こいつは男が苦手。あはは、無理だな。

でも、それは言わない。場合によっては巨大なブーメランが俺の鳩尾みぞおちにめがけてバァァァァァァァストッ!!してしまいそうだからな。

もう少しで攻略?出来そうだな。

「ふーん、そうなんだ」

「で、先輩はどうなんですか?」

「うーん、強いて言うなら。近くで可愛い失敗とか、予想外な行動で一緒にいても飽きない子かな」

「先輩、高望みしすぎです」

こいつう。後で久し振りにいじめてやるからな覚えておけよ。

「良いんだよ。所詮タイプなんて物は、好きな人が出来たらその人物にスポット当てて決まるもんだし。好きな人がいない奴は大体高望みな回答しかでないんだよ」

完全に個人の意見。ソースは俺。友人が多かった時、似た事を話していて一人が好きな奴がいることを知っていた。そして、内容を聞いていると完全にそいつの好きな奴の事だった。しかし、俺含め他の奴らは幻想を抱いているようだった。

「そういうもんですかね?」

「そういうもんだ。まあ、風見みたいなおバカも悪くないとはおもぅ・・・・・」

攻略?終わった~。あ~力が抜けていくぅ。

「えっ?」

意識が遠くなってゆく。

スピーカーから流れ出る軽快な音楽が深い眠りにいざなっていく。

それはとても心地よい眠りだった。

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