第20話 ちょっとゲームはどうですか?

夏休みも中盤になり、部室での自堕落な生活が定着し始めた。

やっぱり部室でのアイスは美味いな。

学校という多くの娯楽を禁止され、今まで縛り付けられていた規則を破っている様な感覚は特有の背徳感がある。

様な感覚なだけであって、うちの学校はお菓子類の持ち込みは許可されている。

基本的にこの学校はいろんな所でルーズだ。

そうじゃなくちゃ、この特にすることのない部活が存在していない。

ガリッと俺の歯から音が出る。

やっぱり、このアイス硬っ!

何で、小豆アイスは鈍器に匹敵するほどの硬度を有しているんだ?

「今日も変わんないなぁ」

蒼はソファで横になり、少女漫画を読み、冷房を効かせているのにも関わらずホクホクしている。

俺は向かいのソファに座り、その様を見て無防備過ぎると呆れる。

橘先輩と氷室は休み。

氷室は生徒会の仕事らしいが、橘先輩は休むという報告だけで他に何も言われていない。

たまに先輩はこうやって休む事があるのだが、何をしているか予測すら出来無い。

やはり謎多き人だ。

つまり、俺と蒼の二人だけ

「みゃぁ」

いや、二人と一匹だな。おお、よしよし。

ソファに座る俺の隣に可愛らしいぬこ発見。

少し前に先生に預けられた子猫。俺は勝手にヒスイと呼んでいる。

色々あって、今は部員の一員だ。

ここか?ここがええんか?

こうしていると、ほんとに自堕落な人間になりそうだ。

恐るべし、ぬこと後輩。

今日は先生の手伝いとか無いし、このままでいっか。

「こんにちわ」

さらば、安らぎの時。初めまして、迷惑な人。

ドアから現れ、挨拶をする男子生徒は現在の俺にとってストレスを与える邪魔者でしかない。

「・・・誰ですか?」

嫌悪の表情を抑え、できる限りのポーカーフェイスで対応する。

視界の隅では蒼が警戒の態勢を取っている。

そういえば、こいつ男が苦手だったっけ。

「僕はゲーム制作部の田辺たなべ 陸久りくです。この前は弟がお世話になりました」

「?」

その田辺は自己紹介しながら入室し、俺の前に立ち尽くす。

何のことだ?全然覚えがない。まあ、いいや。

「で、何の用ですか?」

俺はヒスイを膝から降ろし、田辺に座るよう促す。

彼が座るのを確認して、お茶を用意する。

彼は黒髪でイケメンでも不細工でも無い、どっかで見たことある様な顔だ。

人の事をいろいろと言っているが俺もハッキリ言ってイケメンでは無い。

お茶をガラスのコップに注ぎテーブルに置く俺に田辺はさっきの質問を答えを返す。

「僕の作ったゲームのテストプレイをして欲しいんです」

「テストプレイ?」

「ああ、テストプレイって言ってもただ遊んで、たまに感想言ってくれたらいいだけですから」

「何で俺らなんだ?同じ部活の人に頼めば良いじゃ無いか」

俺は普段の口調で疑問を投げかける。

普通は、俺らよりもそれに詳しい同じ部活の人間に頼むべきだ。

誰もがそう思うだろう。

「・・・部活内でそれぞれの作ったゲームの発表があるんですが。自分の作った物に自身が無くて。相談したくても発表まで部活の人に見せる訳にもいかなくて」

で、ここに来たと。ここを知る方法なんて、先生やさっき彼が言っていた弟さんからで分かる。

ここは相談室じゃないんだから、先生はここを勧めないで欲しい。

めんどくさいけど、ここで無視するわけにも行かない。

「分かった。・・・テストプレイだけで良いんだな?」

「はい」

田辺はさっきの不安そうな表情から一変し、笑顔に変わる。

夏の昼頃。今日の部活はゲームプレイ。

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