第19話 やっぱりダメか?
「おしまい」
話し終えると、三人からの視線が痛い。
良いじゃんこれくらいしか良いの無かったんだから・・・。
気まずい雰囲気ながらも、手元のロウソクを吹き消す。
「全然恐くなかったですね!」
「優君真面目にやってよ」
ここだ!と言わんばかりに挑発してくる蒼にイラだちを覚える俺を優しく注意する橘先輩。
別に、この状態ならそう言われてもおかしくない。
言いたいな、これが意味が分かると恐い話だっていうことを。
この話、個人的にめっちゃ恐いこと。
でも、蒼の緊張はほぐれたみたいだし、これでいいか。
脳内で自己完結していると、氷室が難しい顔で唸っている。
「どうした?」
「ちょっと引っかかるところがあってね」
俺の質問に答える氷室の顔は歪んでいた。
それに気付かない二人は氷室に疑問を投げかける。
「引っかかる所なんてありました?」
「普通の恐い話のアレンジだと思うけど」
もしかして、氷室の奴気づいたか。
「この話は、ぬいぐるみのロックが電話をかけ続けて主人公の女性の元に来るという感じよね。」
「はい」
「そうじゃないの?」
うん!この二人は息ピッタリだ!
氷室は話を続ける。
「ぬいぐるみが歩くのはオカルティックなものだから良いのだけど、途中からボロボロのぬいぐるみが明るい街を歩いたり、買い物したり、大家さんに見つかったりしたのよね?」
「・・・・」
二人の顔から余裕が消えていくのを感じる。
「仮に、本当にぬいぐるみがそんな事していて、コンビニ店員、大家さん、他にもすれ違う人達などは普通に接客とか出来るかしら?」
「・・・・」
もう二人も理解したみたいだな。
「つまり・・・・ぬいぐるみの周囲にいる人間がおかしくなっている。
もしくは、ぬいぐるみのフリをして誰かが変声期などを使い、電話をかけ続けていたと言うことになるんじゃないかしら」
正解!君が正解しちゃったせいで二人がチワワの如く《ごとく》、激しく震えちゃってるよ。
このままだと、話の全体が考察だけで終わってすっきりしない。
いっそ、解説して綺麗に終わらせてあげるのが優しさだろう。
決して、震えて抱き合ってる蒼と橘先輩をいじめたいんじゃない。
「正解。で氷室はどっちだと思う?」
氷室は視線を素早くこちらに向ける。
「ぜ・・・前者はさすがに無理があるから・・・後者・・・」
「・・・・大正解。この話の真実は、元彼がぬいぐるみのフリをして、女性に電話をし続け油断を誘うという凶行をしている。と言う物だ」
「・・え?な、何で?」
蒼は涙目になりながら途切れ途切れの声で聞く。
「原因は良くは分からないけど、別れ話のもつれとかじゃないかな。
電話した場所は公衆電話なんて無い場所が多い。
つまり、携帯で電話している。なのに最後のシーンでぬいぐるみの側に携帯があったという描写が無いから持っていない事になる」
「見えていないだけじゃないかしら」
「そうだとしても、最後にぬいぐるみが女性の側にあるのに電話がかかって来てる時点でもうそっちの線は無い。で、家とスマホの電話番号を知っている人間は多くないはず。しかも、ぬいぐるみの名前と捨てた事を知っている人間はもっと少ない」
「・・・・」
「なら、彼氏くらいだ。そして、最後の電話の内容を俺の解説を踏まえて言ってみてくれ」
三人は確認するように小声で呟く。
そして、俺を含めここにいる全員が顔を歪ませた。
「ずっと一緒。そして、ずっとずっと笑顔と言うことは全く変わらない表情。
つまり、そう言う事だ」
ここからは個人個人の想像で変わる。俺の意見を押しつけるより自分で考える方が何倍も恐い。
解説のため立ち上がっていたので三人の状態を確認するために視線を降ろすと物凄い勢いで俺を横切り、ぬいぐるみに突っ込む。
怖がりすぎて、橘先輩が俺の後ろにあるぬいぐるみの山にトライしたようだ。
「だ、大丈夫ですかっ!?あっ!?」
な、なに!?右腕に違和感を感じて、視線を変える。
そこには膝立ちで俺の右腕にしがみつく蒼の姿があった。
可愛いけどなぁ、この状態はダメな感じがする。
氷室に蒼を押しつけるために氷室を探すがさっきまでいた位置にいない。
そして、腰の辺りに違和感を感じる。
視線を変えると、俺の左側に座り俺のワイシャツを弱く掴んでいた。
ブルータス、お前もか!
現在、複雑な両手に花を体験中。全くここから動けません!!
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