第17話 恐い話は嫌いですか?

今日の橘先輩はテンションが高く。

珍しくぬいぐるみに埋まってはいなかった。

俺は橘先輩が普通に部室にいる所を今まで見たことが無い。

普段は部室には一番に来て、部活中はいつもの場所にずっといる。

そんな、いつもとは違う橘先輩を見て俺の体に悪寒が駆け巡る。

これから・・・何が始まるんだ!?

橘先輩はおもむろに俺達に語り掛ける。

「夏だから恐い話をしよう!!」

という感じで、俺、蒼、氷室、橘先輩の四人で恐い話をすることになった。

部屋のカーテンは完全に閉められ、電気を消して、四本のロウソクに火が着けられ準備万端だ。

四人で小さな円を作り、一人一本ロウソクを手元に置く。

さっきからロウソクの火で優しく照らされている三人の顔に目が行く。

「恐い話・・・ほんとにするんですか?」

ビビってんな蒼の奴。今日は面白くなりそうだ。

「恐い話ね・・・ちょうど良いのあったかしら」

いつも通り冷静だな。でも、怖がってる氷室が可愛いのかちょっと気になるな。

「どんなの聞けるかな」

すっごいワクワクしてる・・・。本当にこの先輩の事分かんないし、分かりたくない!

「誰からやります?」

とにかく進めよう。正直、恐い話は得意じゃないからあまり知らない。

だから、誰かに良いスタートを切ってもらって会わせていけば波に乗れる。

どちらにしても、最初だけは絶対に避けたい。

「じゃあ、優君!」

「先輩からどうぞ」

「悠斗から始めましょう」

うわー。全員名指しで俺だぁ。

この状態で断る方法があるだろうか?いや、俺の中には無い!

俺は腹をくくり、数少ない恐い話の記憶を探した。

その時、二つの選択肢が現れた。

①異常なほどに恐い、自分がトラウマの話

②恐い話に変化を加える

今回の目的は蒼がターゲットだからこっちだな。

そして俺は声色を少し変え、語り始めた。


これは俺が聞いた話なんだ。

ある日、女性は夜と見間違う程暗い景色を家の窓から見ていた。

その女性の心境と同じように空は厚い雲に覆われていた。

女性は前日に彼氏に別れようと告げられ、大切にしていた彼氏からの贈り物を思い出と共に捨てに行った。

女性は今も胸の奥で受け止めきれない現実を嘆き、ため息を漏らした。

その時、固定電話から電話を知らせるメロディが流れた。

いつも聞いていた音より少し濁っていた気がしたが、その女性は気にせず受話器を取った。

耳に受話器を当てるとかすかにに声が聞こえる。

少しの間、その声を聞こうと頑張ると、声が段々と近くによってくる。

「もしもし・・・何で僕を捨てたの?ねえ、何で?・・・・・・・・・・・まあ、いいや今から聞きに行くよ」

その声は男性でも女性でもありそうな奇妙な声で女性は誰か理解は出来ていなかったが何かを感じ取った。

「う・・嘘・・・そんなはずない!!」

女性の声は曇天へと消えていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る