第10話 成績悪いのはダメですか?

夏休み前日、大量のプリントと宿題が出されてみんなのリュックが重たそうに見える。

しかし、その重りを気にもせず軽やかな足取りで下校していく。

その中で、一際浮いている生徒が一人。

その生徒は重々しい空気をまとい、世界の終わりみたいな顔をしている。

夏休み前に何でこんなに重い気持ちで集団の中を浮いてるんだろう。


個部の部室はいつも通り、橘先輩がぬいぐるみの山に埋まろうとしたので保冷剤とスポーツドリンクを渡して埋めた。

あの人のぬいぐるみへの執念じみたなにかは一体何なのだろう。

こないだの事件で懲りたかと思ったんだけどなぁ。

あの人は放って置いたら危険だな。事件ではあの人、二つの意味で(無視/蒸し)されてた訳だし。

俺がソファに座り、右手の「君の強さは風当たり」という本のページをめくろうとすると、正面にある扉が開かれる。

「・・・蒼か、おっす」

しかし、答えは返ってこない。それは、俺の黒歴史を撫でていく。

蒼はもう片方のソファに身を投げる。横になりうずくまる蒼を見ると、氷室が入室してくる。

「心配になるのも無理は無いわ。彼女さっきばったり会ってからずっとこの感じなの・・・」

そっか・・。この死んだ魚のような目でここまで来たのか。

こうなった理由を考えたら、それっぽいのはあったけど・・・最近蒼いじりがやり過ぎなかんじもするし、言わないで置こうかな。

悲しい顔で蒼を見つめる俺を見て、氷室はなにかを感じ取ったようでおもむろに口を動かす。

「返ってきた成績表の結果が悪かったのかしら?」

その言葉に反応したのか、蒼の全身はソファの上で小さく跳ねる。

俺が躊躇ちゅうちょした事をすんなり言いやがった。

すげえよ。お前。お前のそうゆう所、嫌いじゃないし、好きでもないよ。

「そ・・・・・そんなに悪くないですよ!」

ソファの上で起き上がって、反論する蒼を見て氷室は思いついたように言い放つ。

「じゃあ、みんなで成績表を見せ合わない?」

「えっ!だっダメですよ!先生がダメって!」

焦って思いつきを言い、逃れようとする蒼を氷室は逃さなかった。

「それは許可無くだったらでしょう?そこまで強気で反論したんだから見せても良いって事じゃないかしら?」

「うぅ、分かりました」

俺も同じように捕まり、見せ合いが始まった。

氷室はクラスだけではなく、学年全体で好成績なので面白みがない。

蒼は俺の成績表を見て、少し驚きの表情を浮かべる。

「何でそんなに驚いてんだよ」

「先輩は文系だと思ってましたので・・」

俺の成績は五段階評価だと、数学系、科学系の教科は五であとはほとんど三でたまに四がある、まあ、普通の成績だ。

「何で文系って思ったんだ?」

「普段から本読んでいて、理屈っぽくてめんどくさいからです」

「一旦文系の人に土下座してこい」

こんなやりとりを続けていると蒼の成績表が氷室から渡される。

氷室が頭抱えているのを見て、息をのむ。

二つ折りの表を開く。

「そ・・・そんなに悪くないですよね?」

蒼の言葉が耳に入らず通過する。

そんな中、一つの文が脳裏に浮かぶ。

蒼の成績と掛けまして、お坊さんと解きます。

その心は、どちらも(良く/欲)は無いでしょう。

個部は今日も活動中!

成績の悪さも個性!

でも、現状維持して良いとは言っていない!

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